コマミー

パリ、テキサスのコマミーのレビュー・感想・評価

パリ、テキサス(1984年製作の映画)
3.8
【妻《母》を探してどこまでも】




※午前十時の映画祭にて鑑賞




「PERFECT DAYS」が昨年公開され、日本でも再び有名になったドイツの名匠"ヴィム・ヴェンダース"。
そんな彼を語る上で、やはり欠かせないのは本作だろう。"カンヌ映画祭"でパルム・ドールを受賞し、「アメリカン・ニューシネマ」の構造を意識した名作の一つとして今でも語り継がれている。

訳あって、"妻と息子"と離れ離れになり、1人"テキサス"の荒野を徘徊していた"トラビス"が、拾ってくれた弟のはからいで息子と再会。そんなトラビスは、再会した息子と共に、車でヒューストンにいる妻:"ジェーン"を訪ねる旅に出かける。

"ロードムービー"でありながら、その中で息子との"心の縮まり"やトラビスやジェーンが「なぜ別れなければならなかったのか?」を時間をかけて描いていく所が、ヴェンダースの"作家性"が活きていて良いなと感じた。この物語をロードムービーとして描いたのも、夫婦間や親子間の"関係の距離"を強調して描きたかったのではないかと感じた。
正直、トラビスとジェーンの心情に関しては共感はできない。だが、これは私だけかもしれないが、そんな2人の複雑な関係性も息子の"ハンター"の存在が丸く包んでくれるのが不思議でたまらなかった。トラビスやジェーンの物語であるのだが、勿論大部分はハンターの"寂しい心を埋める"物語であったと感じた。ハンターの明るさに、終始涙が出そうになったよ…。

ジェーンを演じたクラウス・キンスキーの娘"ナスターシャ"がとても美しい。というか、本作の"カメラワーク"がうまいのだと思う。テキサスの荒野の壮大さと厳しさを映した"ロビー・ミューラー"には拍手を贈りたい。

最後に、本作も"心の空白がもたらす光"だったのだと私は思った。「PERFECT DAYS」でもその他のヴェンダース作品でも多くにこの物語が込められており、これは"小津安二郎"監督の「東京物語」の影響が多い。
「こんなところでもか…」と感じてしまうかもしれないが、ヴェンダースは自身の作品の随所に小津の作品の"影響またはアンサー"を描いている。本作はどちらかというと、アンサー的作品だ。

失ったものは"決して簡単に取り戻せない"…だけど、それでも少しでも大切な存在に"光を灯す事"はできるかもしれない…

これは、人生の教訓であり、誰にでも起こりうる事を美しく描いた傑作なのかもしれない
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