映画撮影中に失踪した親友でもある俳優フリオを探す映画監督ミゲルの旅。映像には作為的な印象は一切ないけど、きっと熟考を重ねて空間を切り取ったのでしょうね。作品の中で時間がゆったりと流れ、ミゲルがフリオ探しを通じて過去を辿っていく姿も、同じく静かに、じっくりと進んでいきます。それでもなんとも贅沢な気分に浸ることができました。地味なようで時間を忘れて見入ってしまう…。
驚かされたのは、『ミツバチのささやき』('73)でつぶらな瞳が印象的だった6歳(?)の少女アナ・トレントが、アラフィフを超えて登場し、あの時と同じセリフをささやいたこと。
“Soy Ana(私はアナ)”
これはビクトル・エリセ監督の遊び心だったのか、それとももっと深い意図が込められていたのか。いずれにしても、予備情報なしで観ていたにもかかわらず、「ここで来るかも」という直感が見事に当たった瞬間、無邪気に喜んでしまいました。6歳のアナの“ささやき”が、それほど深く心に刻まれていたのだと思います。なんだか感慨深い。
『ミツバチのささやき』はDVDを持っていて何度も観返している大切な作品ですが、レビュー未投稿だった……。