ねてぃ

湖の女たちのねてぃのレビュー・感想・評価

湖の女たち(2023年製作の映画)
4.0
【ネタバレアリ】

うーん、重かった!
終わった後の印象は…松本まりかさんにとにかく引き込まれて、彼女のいろんな瞬間が忘れられなかったなあ…という感じ。

夜明けを迎える琵琶湖の美しさから始まり、琵琶湖を囲んで罪を犯そうとするもの・それを知っていて止められないものを映して終わる本作は、自然の美しさの中で、どうしても生きていかなければならない人間の小ささ、愚かさ、哀れさ、美しさを感じさせてくれた。私は結構好きだったな。


【以下ネタバレあり鑑賞メモ】

松本が道路に一人立って、豊田に取り調べの話をして泣くシーンが一番苦しかった。

・生きる意味について
事故後の取り調べで「私はやってない」と叫ぶ松本と、濱中の胸ぐらをつかんで怒鳴り散らす伊佐美と、されるがままになる濱中のシーンに痺れた。
プライドを持って、人に喜んでもらえることが幸せで介護士をすると語る松本と、かつて自身も仕事に誇りを持っていた伊佐美の対比。
仕事の意味を自分軸で解釈している松本、自分たちの仕事は世間が納得するモノであればいいと解釈するようになった伊佐美。

今まさに罪を犯しに行く途中の子どもたちが、湖を歩いていく。
それを目撃している大人たちもまた、罪を犯し続けている。
湖のほとりで、職場で、家庭で、色々な場所で。
それでも生きていかなきゃいけないし、明日はくる。琵琶湖には朝日が昇る。作中「もう戻れない」と豊田は言っていたが、戻れないなら進まなければならないという点も、とてもリアルだったと思う。

・支配されることについて
終盤で豊田が濱中に言った「死ねば支配されたままでいれたのに」みたいなセリフが印象的だった。支配されることは、自由が奪われる点では苦痛だけど、そもそも自由ではなかった人にとっては、支配されただ流れに身を任せることのほうが楽なのかもしれない。
自分で選択しなくていい。選択することで生まれる責任を負わなくていい。なにか間違いが起こっても、それは自分ではない「なにか」のせいだから、と、逃げることができる。
でもなあ、そう書いてはみたものの、逃げたものの胸中には小さなしこりのようなものが残るんじゃないかな…とも思う。

・豊田がお風呂に入れていたおじいさんの体が映されるカットがあったが、どういう意図があったのか気になった。

・劇中で描かれる性愛について。
介護施設でおじいさんがおばあさんにキスをして介護士に怒られるが、おばあさんは「よかったわよ」といって皆が笑い合う場面
また、濱中と豊田の関係、市島夫婦の関係、ロシア人女児と日本男児のことなど。
豊田のネイルをしている足が映る場面がありその時点で既に豊田が濱中に「支配される」準備段階が始まっていたわけだけど、そういう伏線?兆し?が他にもあったのかなと後から思い返したので、もう一度見てみたい。

・支配関係について
どの支配・被支配の主従関係を見ても、分かりやすい区別になってはしまうが男性性を持つものが優位である関係が繰り返されていたなあと感じた。濱中-豊田間もしかりだが、伊佐美-濱中間のような男性同士の関係性においても、より攻撃的で支配的で決断に明白な理由がある(かのように見える)者が支配している。

・個人の倫理を裁くことは難しい?
真実にたどり着いた若い記者・池田が少女たちをさばけなかったことのもどかしさ。
個人的な倫理観によって侵された罪が、共通の道徳の下で成り立っていた社会のもとで裁かれないことがある。それは権力や利害関係、はたまた権利や自由など複雑な要素が絡み合ったことで、裁かれない。難しくてもどかしいな。
ねてぃ

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