まや

ほつれるのまやのネタバレレビュー・内容・結末

ほつれる(2023年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

とても良かった。
不倫ものはあまり得意ではなかったが、不倫がメインではなさそうだと感じ鑑賞した。とても面白かったしすごく伝え方がスムーズな印象を受けた。

門脇麦演じる主人公の綿子は既婚者で、旦那とは冷え切った関係である。そんな彼女と不倫関係にある染谷くん演じる木村と、グランピングやご飯に行って平凡でも楽しく過ごしていた矢先、自分の目の前で木村が交通事故に遭ってしまう。即座に救急車を呼ぶがそこで自分と木村との関係がバレることを恐れ、そのまま放置、逃げ出してしてしまう。その後、木村が亡くなったことを知る。

まず、セリフではなく、登場人物たちの動作でキャラクター付けをしているところがすごいなと思った。特に主人公夫婦が記念日にプレゼントをあげて、開け合うシーンでの旦那の袋の開け方がひとつひとつテープをとって綺麗に開けていて、少し神経質そうな細かそうな性格なのが一発で見てわかる。また、水を飲んだ後とかも綿子は流しに置きっぱなしにするが、旦那は飲んだ後にすぐ洗っている。こういう細かいところで登場人物のキャラクター性が伝わってくるので、短い時間の中で、すんなり話が入ってくるし、とてもキャラクターがわかりやすいし、登場人物たちの存在感における説得力がすごいなと思った。(しかも、それがわざとらしくなく、ナチュラルだからすごい。パンフレットに監督が演出家の方と聞いてすごく納得した)

また、不倫関係の描き方についても、指輪を効果的に使っていて、それにより、双方にバレるのもリアリティがあって全てがつながっていく感じがうまいなと思った。

その分、結構セリフが少ない。主人公は前半基本静かで、旦那が関係を修復しようとしてもサラッと上部だけの会話になっている。だから、旦那とは好きで結婚したのか、木村がどれだけ大切か、基本的に何を考えているのかが少し追いづらかった。(門脇麦ちゃんのポーカーフェイスもあるが、涙を浮かべて運転するシーンとかさすがだなと思った)

だが、きっと何を求めているのかもわからないから、観ているこちらも何を考えているのか掴めないのだろう。どこか空虚で本質がないが平穏な日々があって。このままでいれば別に嫌なものと向き合わなくていい。木村と楽しい時間があればいい。そんな現実逃避の時間でしかないという印象だった。(木村との性行為のシーンとかは全く出てこないから、なんとなく本当に会ったり、ご飯食べたりの最初の男女の楽しみだけしかしていないのかなと思った。後半、不倫はしてないと綿子は言い張ってるし。敢えて映してなさそうだなと。)

木村といると本当に自分の悩んでることがなくなるし、それは木村も一緒だろと思ったからこそ、同じ悩みを持ってるという安心感があったからこそ、そこに頼りたくなるのだろうと思った(染谷くんは最初しか出てこないが、やっぱりすごく魅力的。なんか吸い込まれる感じがほんと良かった)

最後のシーン。お互い本音で語り合うシーン。ここで初めてこの夫婦は向き合うことになる。目を背けていたものが2人の前に出てきてしまうのだ。ずっと薄々気付いていても変化は怖いし、今までなんとかやってきたのだから。逃げて逃げて逃げ続けた先には何が待っているのか。それはやはり別れなのだろう。本当に怖いことって向き合わないでいることと主人公は気づき、別れをいう。木村に会いたいと。きっと拠り所だから。もう会えないけど、自分の求めていたものに近いものだったのかもしれない。だけど木村とも向き合わなかったのだからもう遅い。でもこれで主人公は気づいたのだろう。きちんと向き合うことの大切さを。だけどきっとそれは本当に難しいことだと思った。何年も一緒に居続け、向き合え続けるなんて。結婚なんて本当にシステムとしては家族と言いやすいのかもしれないが、感情や生きることで考えたら、おかしいし、合っていない苦行だと思う。(だから本当みんな普通にしているのがすごいな...それから、別れ話の時になんか、ぶっちゃける感じはリアルというか、なんとも言えない雰囲気あるよな...。仲直りとも違う感じ。もう他人というよう知り合っている第三者という感覚なのだろうか...)

最後車が走り出すシーンで、初めて音楽が流れる。それまでは、生活音やセリフのみですごく静かだからこそ、ここでも美しい音楽に涙が出た。すごくこれも最後に響く演出だなと思った。寂しさと明るさのある美しいシーンで余韻が残る良作。リアリティのあるシーンの数々と、登場人物たちの揺れ動き、目を背けたぐちゃぐちゃになったものが徐々に解かれていく。まさに「ほどける」作品だった。(音楽がドライブマイカーの石橋英子さんなのも最高だった。すごく心に沁みた。)
まや

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