このレビューはネタバレを含みます
リアリティ溢れるストーリーと台詞回しで演出家としての手腕を見せつけた初長編映画「わたし達はおとな」に続く、加藤拓也のオリジナル脚本・長編映画2作目。
行く宛のない感情、ギスギスした空間には「ドライブ・マイ・カー」を始め、数々の海外作品も担当する音楽家の石橋英子の不協和音が添えられる。
登場人物の誰しもに何かしらの嫌悪感を抱く。父の「犬に救急車はねぇ。」と笑いながら語っていたのが一番気持ち悪かった。そりゃ息子とは疎遠になるだろう。
「うん、そういうこともあるよね。」
「僕はこう思ってるんだけど、どう思うかな?」
義母に合鍵を渡し、前妻と不倫していた夫・文則(田村健太郎)の語尾が上がり、気持ちの悪い行間のある話し方が耳に付く。話も面白くないし、理屈っぽくウザいなこいつ、と思わせるのは彼の演技の上手さか。
妻を疑い、友達の英梨(黒木華)だけではなく、木村(染谷将太)の父(古舘寛治)にまで電話を変われと言い放つ。
ただ、「電話で嫌な思いをさせてごめん」と素直に謝れるのは偉いなと思った。
リビングのソファーで寝る夫。
感情の起伏の無い会話。
無理矢理行こうとする旅行の計画。
夫が不倫をしていなかったら、妻もまた不倫を始めることはなかったのか。
あげく「最初にしたのはあなたでしょ。」「今はその話してないだろ。」と言い訳しかない言い争いがまた始まる。
唯一心が安らぐ不倫相手とも、グランピングの帰りに事故で急死。1年でその関係は打ち切られた。
葬式にも顔を出さず、友人に対しても嘘をつき、アリバイ作りだけを行う。
自分は何がしたいのか、何を守っているのか。
ほつれていく関係を繕いたいのか、解きたいのか。