るか

哀れなるものたちのるかのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
4.9
東京国際映画祭にて鑑賞。世界公開前に観れたことは本当に幸運だった。
こんな世界がずっと続いてくれたらいいなと思わせてくれる今年ベスト級の素晴らしい傑作。
上映開始直後は不気味なピアノを奏で、奇行を繰り返すエマ・ストーンと顔にマッドサイエンティストと書いてあるようなウィレム・デフォーの歪な「家族ごっこ」が白黒で展開され、足元に目をやればアヒルの頭をした犬が歩いているというなんとも目が喜び精神がおかしくなりそうなサイケデリックなビジュアルの映像が展開される。だが、物語が進むにつれそのような飛び道具的なビジュアルやアイデアはそのままにどんどんと人間賛歌的な重厚なストーリーへと姿を変えていった。この不可思議な物語構造をぎりぎりのラインで保たたせているのはひとえにエマ・ストーンが演じたベラというキャラクターの設定と彼女の素晴らしい演技力だろう。この時代のベラは人間というよりも「無垢な獣」としてのヒトであり、不味いものは吐き出し、残虐で、欲に従順だ。だが、旅先で世界を知っていくことで彼女は自然と理性を備えていく。ここが非常にこの作品の素晴らしいところで動物としての「ヒト」とそれよりも上位の存在としての「人間」という二つの領域をベラという”大人こども”を行ったり来たりさせる。彼女は動物的で感情的でありつつ、それでいて非常にロジカルに客観的に自らをとらえることのできる稀有な存在である。だが、それこそが我々であり、人間なのだ。世界は混沌にまみれており我々に主体性などないのかもしれない。だが、そんな世界の中でも我々は成長することができるし愛する人に出会えるのだ。スーパーモダンの直線的で効率重視の世界の中でこのような作品に巡り合えたことに感謝したい。ヒットすることを祈っています。


以下散文的に気になったポイントについて言及します。(ネタバレ)
・マーク・ラファロ最高。(ハルクとラ・ラ・ランドの主演がセックスしまくってるのは不思議な気分だったけど)金に女に酒、ギャンブル。どっからどう見ても気障な彼は非常に人間臭くて大好き。ベラがリズボンの町に消えてやきもきしているのに彼女が返ってきた瞬間にソファーに深く腰掛けて煙草をふかして余裕ぶってるシーン最高。彼との掛け合いは一番の笑えるパートだったし船の上でのおばあちゃんとのしゃべりも最高。話題は最高に下品なのにどこか可愛さがあって愛くるしい。
・3擦り半は世界共通ネタなのか?あいつ登場から退場まで完璧すぎた。Merciじゃねえんだわ。めっちゃ強キャラオーラ出してる常連だったのに笑


__________ 2度目劇場公開後

改めて全てがこの上なく合致した素晴らしい作品だったと感動。何度観ても特別な気持ちにさせてくれる作品だろう。
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