ひるるく

哀れなるものたちのひるるくのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
3.9
【圧倒的映像と痛烈なブラックコメディ】

まず素晴らしいと思ったのは前作の女王陛下のお気に入りでも感じた魚眼レンズや広角レンズを多用してシーンによって閉塞感や空間の奥行きや広がりを演出する使い分け、ストーリーの文脈とは関係なく唐突に差し込まれる様に思えるウィップパンやズームの違和感クセ強カメラワークなど撮影手法。

マッドサイエンティストが魔改造したクリーチャーの歪な造形、不協和音な劇伴、スチームパンク、SFが渾然一体となった奇天烈な世界観。

反面、アールデコ調なインテリアとヴィクトリア風の衣装をベースに時代設定に囚われない斬新なデザイン、豪華客船での空と海の色彩やグラデーションの目の覚める様な美しさ。

閉塞、解放、新旧、美醜と相反するものがマリアージュされた独創的な映像や美術はまさにギャップ萌えで目に楽しい体験でした。

そして成長に応じて視線、歩様、声音の変化を見事に表現したエマ・ストーンは本当に素晴らしかったですね。

ぜひ本作にはアカデミーの撮影賞、編集賞、美術賞、衣装デザイン賞、作曲賞、主演女優賞など複数を受賞して欲しいですね。

ゴドウィンのごろごろうぇのシャボン玉、三擦り半メルシー男とくすりとするブラックな笑いも随所にあり楽しめました。

そう、ブラックといえばマーク・ラファロ演じるクソ野郎ながら哀しく最後は愛おしくも思えるダンカン、自身が拠り所にしていた常識≒有害な男性性がベラの爆誕によって脅かされ自由な遊び人を標榜していた自我が崩壊していく様はまさに痛快なコメディでした、逆に常識を手放せばベラと共に歩めたのかも、、、この辺りは有害な男性性に苦しむ『バービー』のケンを連想しましたね、嗚呼、哀れなるものダンカンに幸あれ。

作品のテーマの一つに女性を‪︎"︎︎もの︎︎"︎︎として扱う有害な男性性からの女性の解放があると思うのですが、その点でバービーと本当に通底してると思います、ラストでベラが元夫(これが有害な男性性の権化のクソ野郎)に対してとった行動はまさに鏡像の関係で男性を"︎もの"︎︎として扱う様に感じましたね、これが進歩なのか如何に!?

これを痛快か痛烈と感じるかは見解が別れそうですね、己の実存を何事にも左右されずに貫き通した哲学的な見地で言うと痛快であると同時に批判を覚悟で言うと私は一部の過激なフェミニズムに対するヨルゴス・ランティモスの痛烈な皮肉も含まれているのではと感じました。

哀れなるものたちとはベラを含めて全てのものたちなのでしょう。
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