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哀れなるものたちのkioのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
4.7
観る前からなんとなく「今年の年間1位かもしれない・・・」と言っていた哀れなるものたちを観てきました。めちゃくちゃ傑作だった!!!!のだが、なかなか読み解きと言語化が難しい作品だったので忘れないうちにまとめておきたいと思う。

あらすじ
不幸な若い女性ベラは自ら命を絶つが、風変わりな天才外科医ゴッドウィン・バクスターによって自らの胎児の脳を移植され、奇跡的に蘇生する。「世界を自分の目で見たい」という強い欲望にかられた彼女は、放蕩者の弁護士ダンカンに誘われて大陸横断の旅に出る。大人の体を持ちながら新生児の目線で世界を見つめるベラは時代の偏見から解放され、平等や自由を知り、驚くべき成長を遂げていく。
https://eiga.com/movie/99481/

予告編
www.searchlightpictures.jp


監督について
ヨルゴス・ランティモス監督は同じエマ・ストーンと組んだ「女王陛下のお気に入り」が一番有名だと思うけど、あれこそ作家性からすこしズレているように感じていて、わたしは「ロブスター」とか「聖なる鹿殺し」の方が好きです。
「ロブスター」は独身は罪とされる世界で、45日以内にパートナーを見つけなければ動物にされる話(ひどい)。まじで動物にされます。
一言で作家性をいうなら「箱庭めいた寓話的世界の中で、思考実験のようにキャラクターの内面を露悪的に描く」だと思います。なんだその設定、と半笑いで見ていくうちに段々真顔になるみたいな・・・。おもちゃのピストルで遊んでいたらいつの間にか本物だったみたいな。あとラストの切れ味がいつもキレッキレで、「うわぁ・・・」と思いながら映画館を出る羽目になります。一番好きな監督かもしれない。

「哀れなるものたち」について
いやぁめちゃくちゃ好きだった・・・今年1位になるかもしれない。
あらすじの通り胎児の脳を移植された若い女ベラが、要は体と精神年齢が全然合っていないところからどんどん成長して行く話。序盤はほんとに1歳児?2歳児?くらいの知能なので喋れないわ漏らすわ癇癪起こすわで大変なんだけど、結構あれよあれよという間に成長していきます。面白いなーと思ったのは結構ずっと寝てる。あと食事シーンが多い。・・・って思ってるうちに性への目覚めが始まって、要はまず生理的3大欲求がガッツリ描かれる。

事前情報でガッツリR18であることと、女性主人公が精神的に自立して行くあらすじなのは読み取れるので、「これ自立の象徴として性への目覚めとか性的な欲求への許容が描かれたら割と嫌だな」とは思っていました。私の体は私のもの!!って言って性に奔放になって行くような・・・。だってそれって何か自傷的というか、ヤケクソっぽいなって。
で、鑑賞してみると途中過程でそういう場面はあるものの、むしろ序盤でさっさと性的好奇心がフィーバーすることで後半に行くにつれてちゃんと精神的に自立して行く話になっていたと思います。※この辺からネタバレ含みますね

鑑賞中に何度もマズローの自己実現理論の5大欲求を思い出したのですが、

自己実現理論 - Wikipedia
ja.wikipedia.org
要は第1幕というのは生理的欲求を満たすまでの話だったんだなと思います。その証拠に、だんだん眠っているシーンと食べているシーンが減ってくる。後半に行くにつれてピラミッドを上がっていく構成でした。性行為シーンはずーっと、ほんとずーっとあるんだけど、段々快楽よりコミュニケーションのツールとして描かれて行くように思います。娼館のシーンが特にそう。

あと最後、ゴッドに「医者になる」とベラが告げているけどこの一言で①医療によって歪に生み出された自分の生への肯定 ②社会的欲求と承認の欲求 が両方回収されているので脚本すごいなと感じました。

途中で言及した「私の体は私のもの」でとどまらず、一言で言うなら「私の決断は私のもの」って感じでベラすんごい格好良かったです。自称する通り実験体なので失敗も何度もするんだけど、ちゃんと自分で何とかしようとする。(ダンカンの金は使ったけど)。ベラがどんな人かというと、最初から最後まで一貫して「欲求を自分で満たそうとする人」です。

あとかなり序盤からベラは外に行こうとしていて、もしかしたら元の生活での「外に出たい」という希求がそうさせていたのかもしれないな、とはちょっと思う。

面白かったー、言わずもがな美術とエマ・ストーンは最高に良かったです。アカデミー賞取ってくれ。あとポストカード集とか売ってくれ。
とりあえず連休中に原作を買いに走ります。この精神性を何か手元に置きたい。
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