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哀れなるものたちのisknのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
5.0
驚くべき熱量がスクリーン全体にほとばしる。主人公の探求心が、生(=性)への渇望が、自由への賛歌が、ものすごい熱さをもって表現される映画を前に、圧倒された。

主人公のベラは、成人女性の身体をもちながら脳は胎児という特異な存在だ。そんな人物が、様々な世界を旅し、いろいろな人たちと出会うのだが、まず主人公のこの設定が絶妙だ。私たちは登場人物の行動や感情に共感をし、作品を理解する。しかし、この主人公は大人でもないし、子供でもない。しかし、決して怪物ではなく、しっかりとした一人の人間なのである。この点が観客の理解できるような理解できないようなモヤモヤした感情を生み出している。加えて、ベラは次に何をするのだろうというある種のハラハラ感を生み出すのだ。しかし、そんな中でも彼女の味わう新しい感情に共感と感動を覚えるという、不思議な感覚がある。この共感と困惑のバランスがとにかく絶妙なのだ。

この映画はフェミニズム的な作品であることは間違いないだろう。描かれるのは男性中心主義からの脱却という、何度もこすられてきたテーマだ。しかし、それが決して説教がましく映らないのは、前述した主人公の特異な造形と相まって、作品が終始コメディ要素を失っていないからだろう。ベラは女性だが大人でも子供でもないキャラクターだ。そんな人物が見る男中心の社会は、私たちに新しい視点と気づきを与える、そして、それが笑えるものとして描かれるため、エンターテインメントとして楽しめる作品になっているのだ。

ストーリーが面白いことはさることながら、演者の圧倒される演技、色彩豊かな世界観、そして美麗な衣装など、見所が満載のとてもとてもゴージャスな映画だ。映画の鑑賞料はTOHOシネマズで2000円と非常に高い(と感じてしまう)が、この映画に2000円は安すぎる、圧倒的に素晴らしい作品だ。
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