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哀れなるものたちのMのネタバレレビュー・内容・結末

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます


度肝抜かれて1回目見た3日後にもう一回見に行ったし初めてパンフレットも買ってしまうほど気に入った

モノクロで始まる本作

ベルファストで学んだ
モノクロフィルムは余計な視覚的情報に気を取られない
その分俳優たちの細かい表情や
描写の移り変わりにのみ集中できるということ

ただこれだけの衣装と装飾、
集中できる!よりも色が見てみたかったなぁが
勝ってしまった

前半は不気味とも違う、心地の良い奇妙が続く

初めの食事シーン、ベラと博士が座っていた椅子が
妙に大きくてかわいかった

そうこうするうち、そのまま呆気に取られていると、とんでもないシーンで映像がカラーに変わる
やられた

前情報なしで観て本当に大正解
(まさかこないだ観たばかりの女王陛下のお気に入りと同じ監督作だということを除いて、、)

普段はあまり必要性を感じない激しい性描写も、この作品ではそれぞれが意味を成していて、かつ相手や内容によってそれぞれがフェーズ分けされている
そしてなによりセックスのことを"熱烈ジャンプ"と訳してくれた人をみんなで胴上げさせてほしい
またエマストーンが女王陛下のお気に入りの時よりも
かなり大胆に脱いでいて、作品への熱意こそのヌードだと解釈できた
素直にそう解釈できたのは、女王陛下のお気に入りで元はヌードではなかったが作品の辻褄やキャラに合わせて、オリヴィアコールマンに止められながらもエマストーン自ら提案し実現したと知ったから
今までは有名女優のヌードシーンをみると
あぁやってしまったか、、とどこか後ろめたいような残念な気持ちになっていた
なぜなら日本では有名女優が脱ぐというと監督に強要された場合や、本人が承諾していても映画の主題はそこではないはずなのに、その部分がネットニュースになったり大々的に報じられる
当人でない周囲からの女性の性についての考え方が国によってまったく異なることに気づいた

エマストーンからもベラからもいかに固定概念やエゴに包まれながら生きているかを気付かされた

公の場で他人にセックスの話をしてはいけない、聞いてはいけない
レストランでまずいものがでてきてもまずいと言ってはいけない
これはこちらの勝手な固定概念だった

またゴドウィンが食事したあとに口から出すげっぷみたいな気泡をみたとき、ベラはけらけら笑っていたのに対し、マックスはきまずそうに奇妙な顔で見つめていたのも印象的だった

舞台を変え模索しながら、動物的感情から人間らしい感情を一つずつ得ていく様
またベラ自身だけでなく、ベラを取り巻く人たちをも変えていく様

この映画を一本観るだけで、1人の人生を一緒に歩んだかのような充足感が得られてお腹が膨れる

冒頭、ただ楽しいからという理由でテーブルからお皿を落としていたが、外に出たいという想いを聞いてもらえず相手が嫌がるとわかっていてビンを床に落としていてすでにここで他人の感情を理解し始めている

また船の上でマーサを海へ落とそうとしたダンカンに対して、やりたいならやればいいと笑っていたのはダンカンが本当にやるわけないとわかっていたから

旅の途中、飢餓に苦しむ人をみて大泣きするシーン
自分の痛み、人の痛みを知るということは
人間が1番成長するタイミングなのではないかと思う

なにもわからなかったところから時を追うごとに成長したベラに反して、お金も持っていて自信に満ち溢れていたはずのダンカンが最後はなにもかも失ってベラに向かって泣き叫ぶほど退化してしまって少し愛おしかった

ベラが冒険に出たあと、代わりを見つけて
同じことをしたはずなのに
まるで実験内容を、性別を、服装を、知能の成長スピードを
版画の如くそのままコピーしたはずなのに
一切の違いようをあんなにも的確に見せつけられたのすごかった

結末も想像以上に完璧で最後のお庭のシーンでは満面の笑みを浮かべてしまった

もうこのあとは他を観ても観なくてもわかる
2024ベストオブムービーはこれ

衣装は
セシリーバンセンのようなシモーネロシャのような
シンプルにかわいいだけじゃなく
大胆でありながら弱さが共存するような
ベラの内面をも表していて
衣装が変わるたびに胸が高鳴った

特に好きだったのは冒険に出た最初の
白いフリルのブラウスに
水色のパフスリーブのショートジャケット
黄色いハーフパンツ
そこから伸びるエマストーンのマッチ棒のような
足の先にある白のブーツ

どこか、というか結構なアンバランスであるのに
めちゃくちゃ可愛くて、思えばぎごちない歩き方で悲しみや痛み、まだ何も知らない、それでいて性への目覚め、外への好奇心で溢れている、そんなベラの中の未成熟なアンバランスを表していたのだと思う

2回目で気づいたが船の中で本に夢中になっているころには、同じ水色のショートジャケットでも合わせているのはアンバランスなものではなく、水色のブラウスに水色のボトムスになっていた
これも同じジャケットを使いながら、徐々にこの世に溶けて慣れ親しんでいく様を表していてよかった

橋の上から身投げしたときと、お城に帰ったときには身を固められていることを表すカチコチのパフスリーブ

そして最後のシーンではやわらかそうなニットのパフスリーブを着ていて、成長で得た幸せと希望が詰まっているように見えた

服や美術、またストーリーを通して
自分の中のクリエイティブな気持ちにびしびし矢が刺さった気がした

初めは哀れなるものだと思っていたベラに対して、いつのまにか尊敬をも抱いていて、哀れなるものだったのはベラではなく様々な概念にがんじがらめに固められたわたしたち自身なのだと気付かされた

ついこの間女王陛下のお気に入りを見たばっかりで
多少のメイクの技術はありつつも
あのときと顔つきがまるで違うエマストーン
やっぱりハリウッドスターすげぇ
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