るんさん

哀れなるものたちのるんさんのネタバレレビュー・内容・結末

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

結論から言えば、めちゃくちゃ面白かった。エマ・ストーンもよくこの役を引き受けたなと驚いたし、難しい役をこれほどまでに体現できる人はそういないと思う。見事だった。美しかった。特に船の上でのダンスシーンが最高。ダンスシーンからのぐちゃぐちゃした展開も最高。

調律のとれていない音楽と、時折切り替えられる魚眼レンズの歪んだ画面が不穏さを掻き立てる。
一見古い時代かと思いきや、未来ともとれるファンタジーな世界観。
天井や床まで凝りに凝った装飾、肩にボリュームを出した衣装、車輪の付いたゴンドラ、赤い木の幹の色使い、どれもどこか気味悪さもありつつ、独特でとても美しい。
ベラの成長とともにモノクロから色鮮やかな世界へ移ってゆく様も良い。

ベラが駆け落ちすると決めた時は「その男はダメ!」と思ったけれど、ベラを使い捨てるつもりだった男の方が夢中になってしまい、ベラの意図せぬうちに男がみるみる破滅してゆく様がとにかく面白かった。
別れを切り出した時に、二人の後ろを葬儀の参列者が厳かに通っていく場面は、男の心情とリンクしているようで申し訳ないが笑ってしまった。
ベラも破滅へ向かうと思いきや、持ち前の頭の良さと逞しさ、"進化への欲求"が正しい方向に軌道修正させ、自身にとって有益な人物を判別する力も身につけてゆく。
ゴッドが風変わりでもちゃんとした心のある人で良かった。冷徹で頑固なようでゴッドも進化しようと努力していたし、娘としてベラを愛していた。だからベラが正しい道を選んでいけたのだと思う。

コイツは殺すしかないか、と思うほどの人物である将軍の末路はブラックすぎて笑ってしまった。ここで鶏犬が効いてくるのか、と。あれは羊の脳でも入れられたのかな。
途中までの展開では、ラストはタランティーノの映画のように全員ぐっちゃぐちゃになって終わるしかないのかな、と思ったけれど、なんだか皆が楽しそうで希望溢れるラストシーンでやけにシュールで面白かった。

マダムの達観したおちゃめなキャラも最高だった。あの人は仮に殺されたとしても、最後の瞬間まで楽しめるのだと思う。私も彼女に是非師事したい。

観る前に「グランド・ブダペスト・ホテル」を思い出していた。ウィレム・デフォーが出ているからか、シュールでちょいグロ、独特な世界観が似ているからか。あちらの方はもう少しポップだったな。

個人的にこの作品は非常に面白かったが、ただ一点、性的シーンが異常に多いので、一緒に観る人は慎重に選んだ方がいいかと。そこは注意。

ー追記―

ベラは将軍を「助ける」と言いながらも、なぜ動物の脳を入れてしまったのかが分からず妙に引っかかっていた。

ふと思いついたのは、将軍は彼女がベラの脳に入れ替わっていたにも拘らず、彼女を自分の妻(箱)として見ていて、ベラの人格(脳)については一切見ていなかった。

ベラはいつでも人と関わる時に、結果的に鏡のように接してきた。自分を使い捨てようとする人は使い捨て、婚約者として真摯に向き合う人には真摯に向き合い、父として愛してくれる人には娘として愛した。

だから、「将軍(箱)は助ける。人格(脳)の方は知らないけどね」ってことかなと。ウインクされたらウインクを返すのがマナーでしょ?って。

そして初めは羊の脳かと思っていたけれど、あれは山羊なのかもしれない。キリスト教では山羊は悪魔を意味するものらしいから。そう考えると強烈な皮肉。

将軍の末路を笑ってしまって申し訳ないけど、仕方ない。人生はブーメラン。
るんさん

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