Marie

哀れなるものたちのMarieのネタバレレビュー・内容・結末

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

感情よりも理性で凄いと思う映画だった。描かれる価値観は大胆で爽快、即ち徹底した合理性で臆することなく固定観念に疑問を投げかけ社会の不条理を破壊していく。その表現を構成する完璧なシナリオや演技や美術。そもそも感情に訴えかけるように造られていないように思える。
まず本作の登場人物には感情移入する相手がいない。観客の性別や社会的立場によるかもしれないし、あるいは旧弊な価値観から脱出できていないせいかもしれないが、恐らくは意図してそのように作られていると思う。
主人公のベラは、二重の意味で足取りも覚束ない未発達の状態で、いきなり生々しい世間に飛び込んで成長していく、その全てが手探りだから、本人の精神は安定しているけど、とかく不安定な状況に飛び込み続けていくのだ。この経過に感情移入し続けるのはちょっと狂気の沙汰のような気がする。
ベラの拠り所は「良い人間になる」という確固たる向上心なのだけど、彼女はまた「自分はより良くなれる」と心の底から信じている。そこが彼女の眩しさであり、安定性でもあり、特別なところだと思う。自分を疑うことを知っていたり、社会的通念の毒を飲まされて育った人間には届かない領域というか。
ある意味彼女は健全な育ちを得ているというか、彼女のことを心配し護りたいと思いながら、結局は彼女の意志を尊重して送り出してくれる親のような存在、帰れる家があるからこそ、自由に世の中を味わい成熟していくことができたのだと思う。
Marie

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