トロント国際映画祭にて。

女優としても活躍するモニア・ショクリの長編3作目。王道ロマコメ。
見終わって「Babysitter」の監督だと思い出した…
この監督作自分には合わないかもな。

寝室は別にするなどドライな関係で妻も教授として自立、良好な成熟した夫婦に見えるが退屈している、中年の危機。
ある日妻のソフィアがシルヴァンの素朴さに惹かれていく…という話。

カラッとした不倫ドラマ。夫と別れて新たな生活を送るも疑問を持つ。
隣の芝は青く見える的なやつだった。手に入らないものな惹かれ、いざ手に入れると冷静になって考える。
結婚生活ではなくても他の場面でもよくある話。

英題「愛の性質・本質」原題「シルヴァンのようにシンプルに」だった。原題のニュアンスに近い内容だったと思う。

哲学を教える40代の女性講師が、別荘の改修を請け負った職人との情熱的な恋を通じて、自身の価値観や階級意識との衝突に直面する姿を描いた、モニア・ショクリ監督による恋愛ドラマ。

夫との関係は倦怠期にあるものの、安定した生活を享受していたソフィアが、労働者階級の無骨な男性シルヴァンと突如激しい恋に落ち、ためらいもなく関係を深めていく前半は、やや現実味に欠けて見えるかもしれない。ムーディな音楽や劇画的な演出にも過剰さを感じるが、それらは本作の本質を覆い隠す意図的な仮面のようでもある。

というのも、本作の焦点は不倫そのものではなく、「恋愛」と「階級アイデンティティ」の衝突にある。二人の関係が深まるにつれ、知的階層に属するソフィアの内面に潜むプライドと、社会的境界を越える恋の無防備さがせめぎ合う構図が浮かび上がる。恋愛と自己認識、どちらを優先すべきか。その問いが作品全体を貫く。ラストで示されるソフィアの選択は一応の結末を与えるものの、曖昧な余韻を残す終わり方のほうがふさわしかったかもしれない。

注目すべきは、このような題材を女性監督が、女性の視点から描いている点である。ステレオタイプ的な男性優位の関係性を反転させ、知的女性が恋に溺れることの滑稽さと痛切さを同時に描き出すショクリの筆致は見事である。物語が不倫に至るまでの急展開とは対照的に、そこから先の描写はきわめて繊細かつ丁寧で、お互いの家族や友人との対面に漂う微妙な違和感が巧みに捉えられている。

そして何より本作を支えているのは、主演のマガリ・レピーヌ・ブロンドーの演技であることは間違いない。知性と肉体、欲望と罪悪感の狭間で揺れるソフィアを、細やかな表情と抑制されたユーモアで体現している。彼女はカナダ・ケベックで著名な女優であり、映画の中では監督自身が演じるフランソワーズと親友という設定であるが、実生活でも二人は親友である。

以上をまとめると、本作は、恋愛映画のロマンティシズムを解体しながら、階級・欲望・ジェンダーの力学を軽やかに暴いている。モニア・ショクリは、純粋な恋愛などあり得ず、必ず恋愛に影響を与える社会構造の力を見逃さない、当代きっての鋭利な観察者なのである。

情熱は失いながらも夫と平凡に暮らす40歳の大学で教鞭を取る女性が、新たに購入した家の修理にやって来た男と恋に落ちてゆく姿を軽いタッチで描いた映画。面白く観れた。