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春画先生のILLminoruvskyのレビュー・感想・評価

春画先生(2023年製作の映画)
3.8
原題『春画先生』 (2023)

監督・原作・脚本 : 塩田明彦
撮影 : 芦澤明子
編集 : 佐藤崇
音楽 : ゲイリー芦屋
出演 : 内野聖陽、北香那、坂本佑、安達祐実、他

ひょんなことから江戸文化の裏の華である性風俗を題材にした「春画」の虜となっていく若い女性の目を通して、春画を愛する個性豊かな人々が織りなす人間模様を描いた官能コメディ映画。

「偏愛コメディ」映画。
そして、
「抑圧からの解放」映画。
「人間讃歌」映画。

観る前は、まさかこんな展開の変な映画とは思わなかったけど、倒錯的狂気を帯びたシュールな展開も含め、ちゃんと楽しめました。

塩田明彦の長編監督デビュー作『月光の囁き』の大人版とも言える一作。

「春画」に描かれた性器の交わりに意識がいってしまうのを防ぐため、文鎮で性器を隠し、部分を隠すことによって全体が見えてくることがある、あるいは部分をルーペで拡大することで見えてくるものがある。と春画先生こと芳賀が語る場面は、"隠すこと"、"拡大すること"によって全体が見えてくる「映画」の構造とも重なり、その芳賀は江戸のおおらかさに誰よりも憧れ、愛しているけれど、現実には今の倫理観に縛られてる禁欲主義的な男という、おおらかな時代を経て、西洋的価値観によりタブーとなった「春画」の歴史をなぞったキャラクターで、人物たちの欲望の変化と意識の変化、関係性の変化を、「春画」の辿った歴史と重ね合わせているのは、「春画」という特殊な題材を扱った「映画」として、非常に巧い脚本で、何より、『春画先生』という作品自体が、性をおおらかに肯定する精神の人間讃歌という「春画」そのものとなっている構造がめちゃくちゃ良く出来ている一作だと思います。

内野聖陽、北香那、坂本佑、安達祐実のキャスト陣の好演、撮影、音楽も良かったです。

多様で歪な性愛をユーモラスに描く、"クセ"の強い奇妙な大人の性愛ファンタジー作品なので、その"クセ"を面白がれるか楽しめるかどうかで評価が別れる作品だと思いますし、
個人的には、「映画表現」に対し、作り物、虚構の世界としての大前提があるのに、現代社会のコンプライアンスで作品の評価を決めるような流れ、そういった作品を糾弾する風潮に塩田明彦が一石を投じてるかのような攻めた作品だとも感じました。

故に、一部の"ユーモアが全く通じないフェミニストさん"には全くオススメ出来ない一作。


「江戸時代、“笑い絵”とも呼ばれた春画の世界は、男性同士はもちろんのこと、致す前の男女、さらには女性同士までが顔つき合わせ、笑い、楽しむものでした。そうした日本の春画の知られざる美しさや艶やかさ、どこまでも陽気な人間賛歌とでもいうべき春画の魅力を少しでも多くの人々に知って頂きたい。その一心で、わたしたちはこの映画を作り上げました。 笑って笑って、ちょっとエロくて、でもやっぱり笑ってしまう、そんな楽しい映画に仕上がったと自負しております。」
- 塩田明彦 -
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