幽斎

イビルアイの幽斎のレビュー・感想・評価

イビルアイ(2022年製作の映画)
4.2
「パラドクス」Isaac Ezban監督作品。病気の妹と共に預けられた少女が、祖母の不可解な行動に疑問を抱き正体を暴くファンタジカル・スリラー。アップリンク京都で鑑賞。

メキシコの伝承を描いたホラーと言えば、レビュー済「ラ・ヨローナ 泣く女」。スピリチュアルを理解しないと意味が分からない。難解に拍車を掛けるのがメキシコの異才Ezban監督。デビュー作「メキシコ・オブ・デス」8人のメキシコ人監督のオムニバス・ホラーは全く評価されず説明不足も甚だしい。私はミステリー、スリラー専門だがメキシコの推理小説で面白い作品を1つも知らない。後は察して下さいばかり。

「パラドクス」一気に南米から北米で絶賛される作品を産み出した。日本のジャケ写が詐欺でお馴染みのアメイジングD.C.、本編に登場しないお姉さんを起用して余計に難解に拍車が掛かる(笑)。謎を解き明かすヒントも南米の民間伝承だが、日本にも同じ解釈の宗教が有るので、しっかり観ればトリックは分かる筈。私も現時点のループ・スリラーの最高傑作の評価は変わらないが、貴方も絶対に二度見したくなる。

「ダークレイン」此処で監督の多くの信者が誕生する訳だが、自分から能動的に意識を働かせない人達には全く意味が通じない超難解。説明不足にも程が有るのは変わらず、又してもアメイジングD.Cのジャケ写に騙されるので消費者庁に通報したく為るが、ソリッド・シチュエーションの中でも徹底的に無駄を省いた結果、シンプルに感じた儘が正解。我こそは!と言う強者は是非チャレンジして欲しい、ソリッド・スリラーの傑作。

「パラレル 多次元世界」レビュー済なので割愛(笑)。本作は原点回帰の南米仕様、「Mal de ojo」Junior Rosarioが書いた邪眼の原作を監督がリライト。今回はアメリカのスポンサーが「何回も難解過ぎる」サジを投げ、スペインの配給会社がサポートして完成。今までの作品に較べれば難解度は大幅に緩和。「ラ・ヨローナ 泣く女」程度の理解で十分。しかし、メキシコなので説明不足は相変わらず。ある種ホラー寄りのスリラーとも言える。

邪眼「Mal de ojo」ラテンアメリカで広く伝わる民間伝承。ソレを見るだけで人は害、不幸、病気を引き起こし、他人に死を齎すと恐れられた。南米特有のキリストと異教との融合で、呪術や死んだ者と交信できるシャーマンに結び付いた。現在では「厄除け」としてお土産で広く売られており、特にトルコのNazarは有名なので、ググってね。

本作はパンフレットが秀逸、配給したAMGエンタテインメントの優しさに感謝。見習え!アメイジングD.C!(笑)。メキシコのホラーなので、若い女性がヤバい館に来ると言うテンプレで始まる。ジャケ写に登場する祖母は初手から雰囲気もヤバ目、使用人カップルも違和感の宝庫。ナラを取り巻く人間関係は初めから複雑で危険な香りを漂わせる。プロット的には「カリブ海アンティル諸島の民話」と「ジャマイカの口頭伝承」ソコを深堀りする程の作品でも無いが、ネタバレ前なので軽くスルーしたい。

【ネタバレ】物語の核心に触れる考察へ移ります。自己責任でご覧下さい【閲覧注意!】

レトリックは冒頭の「三つ子」魔女が彼女達に目を着けるシーンの解釈。ホセファ達も三つ子と言う事に為るが、見た目が違うのは伝承で繋がってるか、で判断すべき。中盤は特にエモーショナルな展開は無いが、ラストの解釈が分り難いのが玉に瑕。ナラとルナが間違えて母を殺す。ホセファが若返り、レベッカに成り済ましてる。伝承はキリストの様な書物が残されてないので、口頭伝承でプロット自体が曖昧なのだ。

「El Baca」の意味、鑑賞後に南米文化に詳しい京都ラテンアメリカ文化協会と交流の在る友人に聞いたが、此処はブラジルとメキシコの事はお任せ下さい!的なフレンドリーなのでリンク貼っときます。バッカは「カリブ海アンティル諸島の民話」の一部、ドミニカの人々が信じる伝説で、ルーツは彼らの故郷アフリカ。バッカは色んなモノに姿を変える生物でお金持ちに成ったり、自分達の利益に直結すると考えるらしい。京都で例えるなら商売繁盛の伏見稲荷大社かな。冥界に通じてる魔境なので奥への参拝は注意されたし。
https://note.com/aclak

バッカは男性、悪魔に相対する者が妻若しくは末の子を差し出す事で彼らを守り、資産を増やすと信じられた。南米人が金銭に執着するのは意外かもしれないが、キリスト教では資産は増えないので勧誘の古典的な手口。悪魔と契約すれば5年後に親近者が死ぬ踏み絵も有る。私は元クリスチャンですが、カルトは信者を何ら方の形で洗脳、支配力を高めるのは常套手段。奴隷が白人の言う事を聞く様に利用したと考えると理に適う。

アビゲイルの怪談話「3人の娘の一人が黒魔術を継承」と言う事は、レベッカは若いままの姿。都会の子供が巻き込まれた事件は彼女の仕業。レベッカをホセファが取り込む、血を飲んでレベッカに変わった。三つ子なので、レベッカの姿はテレサとホセファ。「Evil Eye」の意味は、目の病気は古くから伝染すると恐れられ、日本でも医療が隅々まで行き渡らない時代には医者では治らないと諦めた。ジャケ写はホセファの目が邪眼、彼女の目を見ると呪われると言う意味。邪眼は魔女から受け継がれてる。

母性に着目したと言えばオカルト・スリラーの最高傑作でレビュー済「ヘレディタリー/継承」、ソレの焼き直しに見えなくも無いが、「パラドクス」「ダークレイン」共通するのは、ダークサイドに堕ちる善良な人と、性根が腐ってる悪意の人との遺伝子レベルのクラッシュを描いてる。スリラーは男性主眼の作品が多いが、ホラーは圧倒的に女性主体。理由は簡単で人は母親から産まれるから。遺伝子的に恐怖を捉えるのは、弱い立場の女性であり母である。男が悪魔と契約して得たいモノは永遠の命では無かろうか?。でも、本作は見れば女性は違う事がとても良く解る。ヤッパリ、此の監督は凄い。私は滅多に人を褒めないが、監督の頭の良さには脱帽。問題は観客が着いて来れるかだが?(笑)。

女性が卑陋な悪魔と契約してまで欲しいモノ、ソレは「永遠の若さ」なのだろうか?。
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