幽斎

赤と白とロイヤルブルーの幽斎のレビュー・感想・評価

赤と白とロイヤルブルー(2023年製作の映画)
3.8
【Amazonスタジオ作品シリーズ】原題「Red, White & Royal Blue」。真実の愛は、時に奪い取るモノ。アメリカ大統領の息子とイギリス王室の王子のロマンスを描いたベストセラー小説の映画化。AmazonPrimeで0円鑑賞。

アメリカ人女性作家Casey McQuiston著に依る2019年に発表された仮想小説の映画化。LGBTQムーブメントに乗り「Queer」称賛され一年を代表するベストセラー。「ミレニアル世代特有のユーモア」評された作風は、The New York Timesのベストセラーリスト。米国議会図書館のLGBTQ+コレクション認定。原作には続きが有り、2人のその後も描かれた。日本では二見書房より2021年に翻訳本が出版。

Amazonスタジオが監督に抜擢したのは、既にブロードウェイやウェストエンドで高い評価を得た舞台劇の新世代クリエーターMatthew López監督。名前の通りラテン系、トニー賞を受賞した初の南米出身の劇作家として、華々しい成功を収める。そして、此処が重要だが監督もGayをCome Outしており、正にジャストフィット。

シャレオツなブックカバーのイメージ通り、大統領の息子役Taylor Zakhar Perez。「キスから始まるものがたり」彼を憶えてる方も多いだろう。王子役Nicholas Galitzine。原作のイメージも金髪だが、前作「シンデレラ」続く王子役。日本では「キル・ビル」イメージが強いアメリカ大統領Uma Thurmanも54歳。当初はAmazonプライムで配信前に劇場公開される筈が、SAG-AFTRAのストライキで俳優達がプロモーション出来ず、2023年8月配信開始。世界トップの視聴数を記録。

英国通の私が知る限り、アメリカ大統領の息子とイギリス王室の息子が恋愛関係に成った事実は「無い」(笑)。本作が英米で高く評価されたのは、単なる同性愛ラブコメのコンソールで終わらせず、アメリカとイギリスの同盟関係まで踏み込んだ、ジョークを交えた「政治風刺」秀逸。日本人から見れば強固な英米関係に見えますが、原作が発表されてから現在に至るまで、決して順風満帆では無い。

中国の台頭で貿易力が落ち込んだ経済を立て直したのが、Donald Trump大統領。「アメリカン ファースト」自国第一主義を掲げ、日本企業の多くはアメリカ国内に工場を建設。日本製品だけどアメリカ製、内需を回復させ労働者から高い支持を得たが、移民に厳しく国内の分断に繋がる。イギリスはBoris Johnson首相。私のボリスの評価は高く、久し振りに大英帝国復活をイメージしたが「Brexit」英国のBritainと離脱のexitを組み合わせた造語、EUから離脱に成功したが、イスラム系移民問題も喫緊の課題で或る。

ソレでも地球のリーダーを選べと言われれば、英米同盟しか無い。イギリスは兄、弟はアメリカと言う関係は思想的に深く、相互依存は建国以来変わらない。安倍晋三内閣総理大臣で「日英同盟」復活の機運も有った。ロシアの極東進出を牽制、中国の侵略を阻止すべく、日本が第一次世界大戦に参戦した理由も日英同盟。イギリスは「光栄の孤立」破棄、日本は初の軍事同盟でアジアの優位を獲得。自衛隊は最新鋭ステルス戦闘機をアメリカでは無くイギリスと共同開発する。ソンな世界情勢も薄っすら感じながら、フィッシュ&チップスとペプシを用意して見て欲しい。

【ネタバレ】物語の核心に触れる考察へ移ります。自己責任でご覧下さい【閲覧注意!】

「赤と白とロイヤルブルー」つまり、アメリカとイギリスと言う国を擬人化。Queerだけど異国同士。だが、アメリカとイギリスでは政治に対するコンフィデンスに大きな違いも有り、模範的ルールに縛られたく無い青臭さも感じる。Taylor Zakhar Perezは「ラテン系」「労働階級」「Bisexual」母親は女性初のアメリカ大統領の四重苦(笑)。Nicholas Galitzineは王室で揺ぎ無い様に見えるが、出自の争いや国王との関係性等、負けず劣らず複雑。私も武家の出自なのでチョッとだけ気持ちは分る。「外交」と言う名の2人のラヴラヴ度は、北海の氷も解かす程に熱い(笑)。

「Boys' Love」和製英語なので外人さんに使わない様に。BLがお好きな方には、本作は100点満点の世界が保証された作品(ホント)。だが、原作は「Privilege」特権階級の描き方に問題アリとエクスキューズされた。政治パフォーマンスでは本作も多分に偽善的。「おっさんずラブ」「きのう何食べた?」お好きな方は全く気に為らないかもしれないが、私が「コリャ駄目だ」サジを投げたのは、大統領選挙のテキサス州の描き方。

日本でも「消滅可能性都市」国民をムダに煽る根拠の無い統計が有るが、アメリカにも同じエビデンスは有り、テキサス州は白人の労働者が消滅、若い世代の女性が居なくなると言う衝撃のテータも有る。その為、合衆国から離脱して独立国に成ると言う嘘の様なホントの話も連邦最高裁が違憲と判断する事態に発展。ソレだけ保守派が圧倒的に多く、即ち共和党が強い。アンな選挙戦略で本気で勝てるとは私は全く思わない。

アメリカはLGBTQが盛んなイメージが有るが、Queerへの意趣返し「Backlash」ジェンダーへ反発する動きも活発化。今年のアカデミー賞も、アジア系の昨年の覇者がトロフィーを渡そうとしても、白人の俳優は男性も女性もスルーした事は記憶に新しい。Queerを称賛するハリウッドも、一皮捲れば差別は依然として根強い。イギリス王室は初めからトランスジェンダーに否定的、未来永劫変わらない。ソレをハリウッドから独立してるAmazonスタジオが訴える意義は大きく深い事も書き添えたい。

本作が夢物語の御伽噺で終わるなら意味が無い。BLの人こそ、政治を真剣に見て欲しい。
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