とても面白い。ストーリーもジョークも。
キャンベル家での意識の差が印象的だった。
アダムは人生や命というよりも今日自分らしく生きることを重要視している。この先どうなろうと今ムカつくことに我慢がならない。
母だってこの状況は嫌だしつらいが、なにしろ子どもたちを守らなくてはならないのでそれが最優先。プライドなど捨て、どうやって彼らの命や暮らしを守るかに必死。
父はその間で揺れ動き居場所もなく苦しそう。
命のために何でもできるという意気込みは、実は全員が持てるわけではない。仮に危険が迫っても意思に反することをするというのは想像より難しい。
面白かったのは、父親と呼べと言われたアダムの(うぇぇ……)という無言の顔。
父が寝室を覗いてとんでもないものを見たときのホラー的表情。かわいそうに今後ますますヴァヴヴが嫌いになっただろう。
それと仁王立ちする母の足の間に見える小さなヴァヴヴ。この母は、本気で怒ったら誰も敵わないであろう雰囲気は最初から出ている。
拍手を始める子ヴァヴヴ。ずっとズレた行動をしていたのに急にぴたりと合ってしまって面白い。
宇宙に行ったときの観衆たちも、スピーカーがいなくなったのに拍手していたようだった。人間は拍手をするというのはたぶん有名になっていて、彼らの手でもできるから流行っていたのではないか。称賛を送るといった意味は彼らには解らず、人間が話をした、拍手だ、というただ事務的な行為として行っていそう。
クロエの兄役Michael Gandolfiniも怪演だった。彼の出演作を追っていたら良作に出会えそう。ハンターはキャンベル家に居候するのもすごく嫌、話すのも丁寧に接するのも嫌、俺の不幸は全て彼らのせいなのだから、という被害妄想が強すぎる。彼にはきっと車中生活のほうが性に合っていたのだろう。家財も勝手に使ってやるし食べ物も多めに食べてやるし感謝もしてやらないぞという気持ちがあって、復讐のつもりなのかもしれない。
変な人だから突飛な行動をしていると思ったが、わざと喧嘩を売るような行動を取っていたとも思える。あのタイミングでチップスを食べるのは敢えてだったのだろうか。
最後の、タイトルの意味が分かったのもうますぎて少し面白い。経済の見えざる手のことだろうか。それともヴァヴヴたちの、今日は手を出されていないがいつでもどうにでもなるこの力の差のことだろうか。或いはこの芸術や思いはいつか正当な評価のもとに置かれるということか。
あらすじ---
2036年。
地球は5年前に上陸した、ピンク色の軟体生物ヴァブブ(VUVV)たちが統治していた。
高度な文明が持ち込まれ実質占領状態となり、結果として多くの失業が起きている。
学生のアダム・キャンベルは絵を描くのが好き。
母親ベスは法律の学位を持つインテリだが現在職探し中。家には何通か督促状が届いている。
妹は庭先で簡単なハーブを育てようとしている。
父親は見当たらない。
ヴァヴヴたちは教育も掌握。
アダムたちはひたいにノードという特殊装置を付けてヴァーチャル授業を受けた。
内容は、ヴァブブの技術によって人類は救われたのだというプロパガンダ。
英文学を教えていた教師スタンリーも今日を最後に職を失い、今後カリキュラムはヴァヴヴの文化や歴史の授業に変更。
アダムは美術の授業で、転入生のクロエ・マーシュと知り合った。
クロエの家族は、郊外にあった自宅の上空にヴァヴヴが巨大施設を建設して地上げに遭い、財産をなくして今日やっと通学にこぎつけた。
モーテルや車中泊で転々としていると知る。
下校時間。
校舎の前で立ち尽くしていたスタンリー先生は、ポケットからピストルを取り出し命を絶った。
クロエとそれを見ていたアダムは、うちに泊まったらと提案。
夜、アダムの一家3人とクロエの一家3人で気まずい食卓を囲む。
合成肉と合成野菜のディナー。それでもクロエは嬉しい。
突然同居を独断で決めてきたアダムに母親ベスたちは内心困惑。
母ベスは知的で温厚そうだが、こんな状況ではそれも不安定。
地下室が空いているから好きなだけ居ていいと言ってしまったようだ。
家賃を払う当てはまだない。
兄のハンターに至っては感謝すら述べず憎まれ口を叩きながら食べている。父と妹の希望で仕方なくついてきたようだ。
クロエは上層施設の住民が捨てたゴミを漁りに行く。アダムも誘った。
上空を浮遊する巨大複合施設が落とす不用品の中から、使えるものを探す。
重い粗大ゴミをわざと高いところから落として、下層民が使えないようにしているらしい。
アダムの父は不動産開発で、かつて上層に人間を住まわせるプロジェクトの下請けの話があったことがあった。
しかし条件の悪さに、プライドを捨てられず結局断る。当時はここまでの状況になるという予想がなかったせいもある。
そして今はカリフォルニアで新しく仕事をすると家を出たがずっと連絡は取れていない。
アダムはクロエの肖像画を描いて贈った。
クロエは喜び、二人はキスを交わす。
少しでも小遣い稼ぎをしたいクロエはある提案をした。
二人で恋愛実況・ショーをするのはどうか。ノードで受信するのではなく発信をする。
それをヴァヴヴたちが視聴すれば金が入る。
ヴァヴヴは恋愛せず性欲もなく無性生殖なので、人間の愛というロマンティックな活動にはかなり興味を持たれている分野らしい。
アダムはクロエのために承諾。
二人はノードを付けてデートを開始。ノードは装着者の五感を読み取り、脈拍や発汗なども読み取る。
手を繋いで歩き、話をする。この状況に慣れず落ち着かないアダムにクロエは微笑む。
やがて少しずつ視聴者が現れた。
家でレトロな恋愛映画を観てキスをする二人。
視聴者は数百人に。
一週間が経ち、食卓には久しぶりに本物の肉や野菜が上がった。
クロエはいつでもノードを付けようとし、もうあのどん底状態には戻りたくないと少しでも稼ごうとした。
アダムは、クロエが本当の好意なのか演技なのかわかりかねるように。
他の家族も、自分たちまで配信に乗せられるのは居心地が悪い。
ある日アダム宅で、マーシュとハンターがベスの留守中にPCを無断で使用。
しかしハンターは、持ってないのだから使わせるのが当然だと詫びも感謝もしない。
マーシュも私より運が良いだけだろうと思わず癇癪を起こし口論。
その間ハンターは勝手にポテトチップスを食べだしてめちゃくちゃ。
その日の夜からマーシュたちは地下室で食事をすることになった。
この一件もありアダムとクロエは更にぎくしゃく。
アダムは話し合いたいが、クロエはとにかく配信しようとする。
普通の会話も笑顔もなくなり険悪なムード。
視聴者はどんどん減った。
やがて二人のもとにヴァヴヴ語の「人間放送規制委員会」から召喚状が届く。
何やら訴えられたらしい。
上層施設へ呼ばれる。アメリカ領空ではなく国際空域という扱い。
現場までカートを運転する人間の男性はヴァヴヴ語を話せた。
以前は著名な外科医だったという。だからこそ仕事が得られたと。
ヴァヴヴたちは彼のような人間を雇うのが好きらしい。
彼らは自動運転の球体でどこでも行けるので、実際には車も運転手も必要ない。
しかしシャーリーからの初任給は外科医の年収の5倍だったので彼は家族のため転職を決めたそう。
呼び出しを受けたヴァヴヴの事務所へ。
そのヴァヴヴはシャーリーと呼ばれている。
ヴァヴヴたちは四足歩行で手には指がなくヒレ状、ピンクっぽい柔らかい皮膚を持つ。
シャーリーは彼女の子どもたち全員と配信を観ていたらしい。
しかし今や二人は実際には恋をしていないと指摘。
彼女は人間の法律以外に、人間の恋愛や生殖などの専門家だそう。
配信当初は恋愛していたかもしれないが、もう頬を紅潮させるなどの恋愛独特のしぐさが一切みられないと言う。
人間の愛は最高にユニークで詩的な行為。そう思い興味深く観ていたものが、欺瞞だと感じ怒っている。
そしてこれまで受け取った全額を返還するよう要求。
払えないなら裁判所に訴え、家族約6代にわたり借金を背負うだろうという。
するとクロエは、また最初からやり直します、ただしお互い相手を替えて、と提案した。
帰路クロエは、ビジネスと「友情」を切り離そうと話す。
クロエにとって恋愛は贅沢であり、それより衣食住の確保をすることが先決。
夜、アダムは法学の博士号を持つベスに相談するが、勝てる見込みなどないのは明らか。
最悪の場合、財産を取られるのはもちろん、南極にある監獄に送られかねない。
ベスは単身、シャーリーに会いに行く。
待合室にいる間、別のヴァヴヴが通りかかり黙って握手を求めてきた。
ベスはシャーリーに会うと、討論は避け、母親の愛について涙ながらに訴えつつ相談。
人間に強い興味のあるシャーリーは、そのベスの様子を間近で見て目を輝かせる。
一旦訴訟を取り下げさせることに成功したベスは、その代わりに条件を持ち帰った。
さきほど握手したシャーリーの末っ子を、アダム家に1学期間居候させる。
そしてその役柄は、ベスの夫。
その子を満足させられれば家を守れることになる。アダムも妹も嫌がるが仕方ない。
奇妙な生活が始まった。
フェイク結婚式を行い、4人で食卓を囲む。
戸惑う家族に対し、そのヴァヴヴはエンジョイしているようだ。
ただヴァヴヴが憧れているのは昔ながらの封建的家族だったようで、自分が家族を養っているという設定。
ベスや子どもたちに命令的な物言いをする。
クロエはぐったりするアダムを心配するが、アダムは苛立ちその優しさを受け入れる余裕はない。
この状況に耐えられないアダムは、地下室に避難。
しかしハンターは、お前らみたいなやつらが俺たちを虐げてきたと突っかかってくる。
父マーシュも、両親は高学歴で家もあってヴァヴヴまでいる、そんなチャンスを掴めるならどんな犠牲をも払うと言う。
アダムがうんざりするこの家さえも、マーシュたちから見れば嫉妬の対象らしい。
深夜、アダムが物音で目を覚ますと、連絡もなくこっそり父親が帰宅していた。
スーツを着ているがヨレヨレ。
いい報告ができるのを待っていたら連絡できずじまいだったと言う。
ヴァヴヴとの取引を断った父だが、その後もヴァヴヴたちに仕事のチャンスを奪われ続けたらしい。
アダムもヴァヴヴに従うことに辟易しているので二人は話が合った。
父は家族を妹と妻も心配して感極まる。
母さんは今も独りかと聞かれ、今の状況を答えられないアダム。
この父に、借金のためにヴァヴヴと夫婦ごっこをしているなどと言えるだろうか。
しかし目を離した隙に父はベッドルームを覗いてしまう。
同じベッドにヴァヴヴがいるのを目撃し、すぐさま出ていってしまった。
今度こそ戻らないだろう。
アダムたちの学校は全面的にノードの授業となり、登校の必要がなくなった。
校舎の窓は板で塞がれていく。
ベスはヴァヴヴとともに家でずっと古いテレビドラマを観て無為な時間を過ごす。
しかしヴァヴヴはそのドラマのような再現をしたいようで、レトロなエプロンとカツラまで購入しベスに与えようとした。
そこへベスに待ちに待った仕事の電話が舞い込んだ。
以前面接を受けたスープショップ。
喜び勇んで出ていこうとすると、ヴァヴヴが通せんぼ。
私が養っているのだから行くなと言う。
高収入ではないが家でこんな茶番をしているよりずっと良い。ベスはついに反論しヴァヴヴを置きざりにした。
アダムと母たちが帰宅すると、ヴァヴヴは地下室で食卓に座っていた。
かつらをつけたマーシュを妻として。人間の区別がつかないようだ。
マーシュはその役割を死守するつもりらしい。
喜んでそれを譲るキャンベル家。
ともかく家の中は丸く収まった。
アダムは、誰もいなくなった校舎の壁に絵を描き始めていた。
するとあのヴァヴヴが道に迷って通りかかった。絵を見つめるヴァヴヴ。
次の日。
あのヴァヴヴと母シャーリー、そして人間芸術の権威兼コレクター。
作品について説明を求められ、最近大変だったから感情を吐き出したかった、ヴァヴヴたちが来てから多くを失いまた乗り越えてもきた、それを描いたと説明。
するとその権威とやらは、君を正式に招聘しこの芸術を我々のテリトリーでも広めたい、と巨額の年俸を提示。
契約書を見て喜ぶ母親。
妹は、兄も父のように帰ってこなくなるのではと不安。
マーシュとハンターはまたしても嫉妬している。
出発当日。アダムは自動運転の球体に乗せられ宇宙へ。
船内で説明を受ける。
アダムはこれから行く12の銀河で新しい作品を作り、ヴァヴヴはそれを複製し販売するという計画のようだ。
船内にはあの校舎の壁があった。巨大な壁をくり抜いて丸ごと持ってきたらしい。学校を復活させる気など毛頭ないらしい。
絵には、ヴァヴヴを好意的に描いた修正が勝手に描き足されていた。絵のコンセプトはちゃんと説明したはずだが。
さらにアダムは大勢の前でのスピーチを指示される。人間の野蛮さを超えヴァヴヴのお陰で美しい芸術を会得した経緯を語れと。
アダムは契約を破棄し家に帰される。
ベスに謝るが、ここがあなたの居場所だと迎え入れる。
アダムは再び夜の校舎へ向かった。
するとクロエもそこにいる。
二人はお互いこれまでのことを詫びた。
アダムは残っている壁に再び手を付ける。
クロエにも白いペイントローラーを渡し、二人で下地作りを始めた。
Q-tips……綿棒のメーカー。クロエの父親が失くす。
Slider……スライダーサンドイッチ。名前の由来は諸説。ロールパンを使うサンドイッチで、見た目は小さいハンバーガー状。丸めた生地を並べて焼き、繋がった状態のまま間に具を挟んで、切り分けることが多い。メインの他オードブルやスナックとして。アダムたちの学校の木曜のメニューは土星スライダーと月ナゲット。
学校の献立表
月 SMEAT CUBE & RICE
火 TACO BRUNCH, GLOW RINGS
水 WHEATMEAL LOAF, SHAM & BEANS
木 SATURN SLIDERS, MOON NUGGETS
金 BLACKHOLE SOUP, CRYPTID CRACKERS