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貴公子のsnowbirdのレビュー・感想・評価

貴公子(2023年製作の映画)
4.0
原題は귀공자キコンジャ/The Child (=貴公子)、したがって邦題は直訳。
ノワールというには薄味で、コミカル要素もあり、爽快に見られるエンタメ作品となっている。映像・演出はスタイリッシュである一方、カーチェイスや銃撃戦は迫力たっぷりなので、劇場で体感するのがおすすめ。

ストーリーに複雑さはなく、辻褄が合わないと感じることも。けれども、暴力的な描写を通じて善悪で割り切れない人間の性質をシニカルかつコミカルに描こうとする意図に好感を持った。貴公子も無敵に強いくせに痛みに弱いとか、高貴な身なりなのに靴が汚れることや車の修理費を気にする、とか矛盾だらけ。
韓国人の父親とフィリピン人の母親を持つ「コピノ」と韓国富裕層の格差についても風刺している。コピノの問題は、韓国の父親が認知も生活支援もしないため、貧困を余儀なくされているということ。日本や他の先進国の父親は、認知や金銭的支援をすることが多いそうだ。

キム・ソノ(ソンホ)はもちろん、マルコ役カン・テジュの純粋さと悲壮感、御曹司役キム・ガンウの艶やかで豪胆な演技も印象に残った。コ・アラや後妻の娘もかっこよかった。

<貴公子役のキム・ソノについて>
甘い顔立ちゆえに「この顔はノワールじゃない」と当初監督は乗り気でなかったそうだが、激しいアクションをこなすとともに、ウィットに富んだお茶目なキャラクターを作り上げた。狂気と可愛らしさ、麗しさとコミカルさ、という相反する要素を併せて表現できる稀有な俳優。
スキャンダル直後に向き合ったのがこの貴公子役で、型破りなキャラクターを演じることで苦しい思いを昇華でき、より魅力的な演技に繋がったのではないだろうか。本作で映画賞新人賞を受賞。華麗な復帰を喜ばしく思う。
*ハングル表記に忠実なのはソンホだが、韓国語ではnの後のhが弱まるのでソノと発音する
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