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貴公子のnetfilmsのレビュー・感想・評価

貴公子(2023年製作の映画)
4.0
 『The Witch 魔女』とその続編となる『THE WITCH/魔女 -増殖-』の大ヒットが記憶に新しいパク・フンジョンの新作は『The Witch 魔女』トリロジー・シリーズの完結編ではなく、随分変わった趣の映画ながら、これは冒頭から韓国産ノワール・サスペンスの趣である。韓国人の父の行方を知らない青年マルコ(カン・テジュ)は、病気の母のためにデヴィッド・フィンチャーの『ファイト・クラブ』ばりに、フィリピンの地下拳闘場で闘い日銭を稼いでいた。しかしそんなある日、父の使いと称する男が現れ、マルコは韓国に向かうことになる。その飛行機の中で自らを仲間だと言う謎の男「貴公子」(キム・ソンホ)と出会い、不気味に笑う「貴公子」に恐怖心を抱いたマルコは逃げようとするが、「貴公子」の執拗な追跡と周囲を翻弄し邪魔者を蹴散らす狂暴さに追い詰められていく。今作は冒頭から巻き込まれ型サスペンスの様相を呈す。韓国の地に降り立ったマルコはソウル全土で指名手配状態となり、マルコと貴公子の追いかけっこが幕を開ける。規格外の貴公子のポテンシャルは思わず『ターミネーター2』のT-1000を彷彿とさせる。

 パク・フンジョン史上最もスピード感溢れる演出は、巻き込まれてしまったマルコにとってはいったい何が何やらさっぱりわからないし、前半部分では観客にもその真相が明らかにされることはない。正に狐につままれるようなアクションの連続で、観客の度肝を抜きながらも、繊細にミステリアスに手繰り寄せる辺りは韓国産アクションの手練れとなるパク・フンジョンの真骨頂で、難病の母親を助けたいと思う彼自身が家父長制のなれの果てのような、とてつもない家族の欲望の渦に主人公を追い込んで行く。登場人物たちのほとんど全てがアニメ的にカリカチュアされ、『The Witch 魔女』同様に不死身の力を持ちながらも、不死身同士の血みどろの身体的アクションが駆動する様は真に痛快で、アクションの手練れの為には火薬量を惜しまない韓国映画の底力をまざまざと見せつけられた格好だ。然しながら『The Witch 魔女』シリーズ同様に、中学生がノートに敷き詰めた物語のようなご都合主義のちゃぶ台返しの展開はあまりにも無理がある。流石にこの様な業火の中で彼が裏で暗躍した結果だとするのは厳しくないかと思いつつも、韓国産アクションのとことんまでやるか的な演出には賛辞を惜しまない。
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