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テクノブラザーズのnetfilmsのレビュー・感想・評価

テクノブラザーズ(2022年製作の映画)
3.7
 オレンジがかった大田原の夕陽の下で、ケミカル・ブラザーズならぬテクノブラザーズの3人が演奏を始めた時点でかなりビックリしたのだが、演奏を途中まで聴いて着色されていることに気付いてまたしても度肝抜かれてしまった。何と大田原愚豚舎が旗揚げ10周年に放つ記念的映画は大田原愚豚舎にとって初のカラー映画なのだ。まぁ北関東の農村なんてほとんど代わり映えしない農道と電線だらけの何ら変わり映えしない光景なのだが(たまに野犬の交尾も見られる)、リコちゃんの成長に孫の成長を見るような遠い目になりつつ、ドSなマネージャー(柳明日菜)が大田原から東京を目指すと威勢よく言うのだが、全然ロードムーヴィーしない物語には思わず笑ってしまった。何と言うか大田原周辺に結界が張られてしまったのかと思う程、どう足掻いたとてテクノブラザーズ一行は東京に辿り着くことがない。いや、東京に辿り着いたら県跨ぎになってしまうという禁欲的な姿勢が功を奏したのかそれとも、大田原の限定された区域で映画を撮ろうと思考したのかはわからぬが、映画は一向に故郷・大田原を出ようとしない。

 音楽大学でクラシックの作曲の道で日々研鑽を積んだ渡辺紘文監督の弟・渡辺雄司氏のテクノの味わいはちゃんとピコピコしていて楽しい。音はキャッチ―なDAFT PUNK寄りでも、赤いワイシャツに黒のネクタイという見た目は完全に往年のクラフトワークの『人間解体』だ。しかもどの曲もフロアキラーながら、モジュラー・シンセ世代にはグッとくる仕上がりで、大田原中の街の中でテクノブラザーズの爆音は鳴り響く。渡辺兄弟+井野勝美=テクノブラザーズは物語の中で一言も言葉を発しない。職人気質の男たちの集団かと思いきや、マネージャーには社畜のように扱われる有り様で、これは純粋に音楽映画なのかコメディ映画なのかもさっぱりわからない。いや、どこか微妙に滑っているようにも見える。馴染みのおじさんおばさんはもれなく出て来るし、紫塚洋蘭園の磯くんも相変わらず、矢田部吉彦氏曰くOCU(大田原シネマティック・ユニバース)の重要キャラクターとしてこのマルチバースの世界に居る。10年11作に及ぶ渡辺紘文監督の堂々たるフィルモグラフィの中で初のカラー映画ながら、問題はこの手作りの大田原愚豚舎の世界に土足で足を踏み入れた柳明日菜がいまいちシャッフルしていない点に尽きる。正直言って彼女のあまりにも横柄な態度には大田原愚豚舎の10年を見守って来た私も腹が立った。これは単純にキャスティングのミスだと思う。
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