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プリシラのnetfilmsのレビュー・感想・評価

プリシラ(2023年製作の映画)
4.1
 ソフィア・コッポラの映画はいつだってガーリーでエレガントでスマートに見える。それは処女作『ヴァージン・スーサイズ』で大人の世界を覗き見た少女の黄昏そのものだ。あるいは『マリー・アントワネット』において名家に嫁ぎながら、浪費を繰り返すヒロインを思い出す。大人のビターなほろ苦さを偶然目撃した少女は、父フランシスを冷静に見つめる彼女そのものである。言い方は悪いがソフィアがあのフランシス・フォード・コッポラの娘とは私には俄かに信じられない。エキセントリックで粗暴で大人な男性を冷静に見つめる純朴でどこか寂しげな少女の眼差しと愁い。それが余すところなく詰め込まれた映画がこの『プリシラ』である。エルヴィス・プレスリー(ジェイコブ・エロルディ)と出会った時、主人公プリシラ(ケイリー・スピーニー)の年齢は14歳だった。「9年生」と答えた彼女の答えが最初エルヴィスにはわからない。ドイツ系ゆえの大人びた表情も見せるが、受け応えを聞けば明らかに子供。エルヴィス・プレスリーはロリコンだったのだ。

 コカ・コーラの瓶にストローを差した彼女はその時点で、大人びたエルヴィスからの求愛など予想し得ただろうか?天にも昇るような絶頂の日々の幸福はスターではなく、我々のような普通の人々にも十分に理解出来る。我々はその後のプリシラの男性遍歴や『裸の銃を持つ男』シリーズの華麗なる女優業を観ているだけになかなかフラットに観れないのだが、映画はプリシラがエルヴィスに純粋に愛されたい素敵な人だったことを明らかにする。彼女はただ単にエルヴィスを愛していて、SEXのタイミングも家での立ち居振る舞いもその都度その都度の髪型やメイクもエルヴィスの何気ない言葉に100%沿うような妻を演じてしまった。当時の世界線でも心底とち狂っていたであろうエルヴィスの絵本の読み聞かせならぬ聖書の解釈に耐えられなくなったプリシラが発狂する瞬間があるが、出会った時は10歳の歳の差があろうが、結婚して子供が生まれ、同じ大人として歩みを始めた途端、女性の方が男性よりもどういうわけか先に大人になって行く。その辺りのエルヴィスのダーク・サイドに関してはバズ・ラーマンの『エルヴィス』に描写されている通りでそちらを参照されたい。

 おそらくプリシラの娘リサ・マリーとの葛藤は焦点がぼやけるので割愛したのだろうが、実はリサ・マリーとマイケル・ジャクソンが別れ、ニコラス・ケイジと再婚した時、信じられないことにソフィアとリサ・マリーはいとこ同志であったわけだ。これを書いている時に偶然亡くなってしまったソフィアの母エレノア・コッポラに哀悼の意を表し、謹んでお悔やみ申し上げます。
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