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プリシラのみのネタバレレビュー・内容・結末

プリシラ(2023年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

エンドロール。なんだか涙が止まらなくなった。大きく感情が揺さぶられるシーンがあったわけではないのだけれど、すべてが、切なく愛おしく、満たされていて、でもからっぽだった。

ソフィア・コッポラ
聞いたことがあるなと思ったら、The Beguiledの監督か。
トレーラーを見て、これは見なきゃ!と、今は無き地方の小さな映画館まで足を運んだことを思い出す。当時は高校生だったか。劇場にはおじさんが3人と私だけで、少女たちの強さと、脆さと、男と女の欲望、それから映像美に打ちひしがれた記憶がある。
あの耽美な映像の記憶があったので、ポップな音楽にはじめは少し驚いたけれど、瓶コーラを飲む幼くあどけないプリシラの姿に、すぐに世界に惹き込まれた。

あまりにも可愛い。
あまりにも可愛かった。
エルヴィスとプリシラの出会い。
何かが起こる予感。
エルヴィスのピアノ演奏。
コップが落ちる。
恋に落ちる。
その瞬間の描き方が素晴らしかった。

彼に染まっていくプリシラの可愛らしさはまさしく恋そのもので、愛を受けていることがありありと伝わってくる。
華やかなその世界に足を踏み入れていく高揚と、対する両親の表情がさみしくて、厳しい父との最後のハグには泣いてしまった。

エルヴィスがプリシラのすべてだった。
そしてそれが、きっと幸せだった。
少女のプリシラには。

でも、彼に染まっていくことだけが全てではなくなる。
少女だった頃の自分を知らない子どもができて、自分だけの交友関係ができて、愛した彼だけが、夫だけが、自分の全てではないのだと気付きはじめる。それが大人になるってことなんだろう。
現代じゃ、ひとりがひとりとして生きるのが当たり前になっているから、人に染まることが幸せだと感じられにくいけれど、きっとプリシラは幸せだった。

やっと、これから彼女自身の人生を歩める。
その背景にはエルヴィスがいて、きっとこれからも彼を愛し続けるのだろうと思って、涙が止まらなかったのかもしれない。

劇場を出るとき、女性2人のグループが「いやあ、よく頑張ったよ。怒鳴られて、椅子まで投げられてさ」と話していて、ちょっと笑った。本当によく頑張ったよな。
愛の裏腹であるような束縛、ある種のDV。現代を生きる私たちならその異常性に気付くことができるかもしれない。
自分が着たいドレスを着ること、それが今を生きている私たちの多くにとっては幸せなのだけれど、彼女は彼の好きなものを身につけることを選んだ。それが彼女の幸せだから。
正直男どもが選んだドレス、似合ってなかったよな。柄物可愛いよな。ベージュのドレス可愛かったよな。
でも、エルヴィスが酷評したドレスを「こんなクソドレス!」と言えちゃうプリシラって、やっぱりエルヴィスがすべてだし、彼色に染まることが幸せだったんだよね。
み