ワンコ

6月0日 アイヒマンが処刑された日のワンコのレビュー・感想・評価

5.0
【警鐘】

アイヒマンの死刑と火葬は、イスラエルやユダヤ教にとっては重要なことだったが、アイヒマンの拘留監視、死刑判決、火葬に関わった人間にとっては何だったのか、何が残ったのか、憎しみの果てに一体何が残るのが、そんな問いかけがテーマの示唆の多い作品だと思う。

(以下ネタバレ)→⚠️だいぶネタバレ




ユダヤ人とは何か?
学校の授業の先生からの問いかけだ。

イスラエルはヨーロッパを中心に世界のあちこちからユダヤ教を信ずる移民が集まった新しい国だ。

ダヴィッドはリビア出身のアラブ人。だが、父がヘブライ語を話せないことなどで仕事も少なく、差別的な扱いを受けることが多い。

アイヒマンの拘留を監視するハイムはヨーロッパ出身ではないため、ナチスの被害は受けていない。そのこともあってか、収容所出身者や家族がナチスに虐殺された関係者が侵入し、正式な刑の執行前にアイヒマンが殺されるようなことのないように監視することも大きな役割だ。

ゼプコはイスラエル戦争で戦った経歴を持ち、ヤネクは収容所出身者だ。

ナチスがユダヤ人火葬のために設計した火葬機材の制作。複雑な気持ちの伴う作業だ。

ミハは収容所出身者で、裁判で証言を行う一方、収容所での悲劇を伝える語り部のようなことも行なっている。
アメリカのユダヤ人協会の女性が、ミハの精神状況を慮(おもんばか)って止めるように進言するが、ミハは続ける意思を示す。

6月0日とされるタイミングてアイヒマンは火葬されるが、ダヴィッドを除く、4人には何の達成感もなかったのではないのか。

だから、ゼプコは、ダヴィッドを追い出したのだ。学校に戻って勉強しろと。それがダヴィッドの未来のために重要なのだと。

しかし、ダヴィッドは火葬に関わったことに囚われて生きていたことが明らかになる。

イスラエルとイスラム教過激派の対立は双方向から苛烈を極めている。
それは、ここにとどまらず、世界のあちこちで分断は深まり、怒りや恨みが募っている状況と同じだ。
これは僕たちの生きる社会への警鐘ではないだろうか。

因みに、アイヒマンの聴いていたのは、ベートーヴェンの悲愴だが、これを好んで聴くような人物が、あれほど残虐な行為を主導したのかと何とも言えない気持ちにもなる。

人とは分からないものだ。
ワンコ

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