ペコ

月のペコのレビュー・感想・評価

(2023年製作の映画)
4.2
相模原の障がい者施設で起きた事件をモチーフにした小説「月」を実写化した本作。「ロストケア」「PLAN75」も重い内容だったが、本作はそれ以上に重かった。そして観終わったあと少し気分が落ち込んだ。でも観て良かった。考えさせられた。
森の奥にある重度の障がい者施設で起きていること。洋子が目の当たりにしたのは職員が入所者にしている虐待の数々。そして一緒に働く職員のさとくんの心境にも変化が現れていきます。自分がもし重度の障がい者と接することになったら、何の偏見や躊躇もなく接することが出来るだろうか?もちろんさとくんがした事は決して許されることではない。しかし、まるで正論のように思想を次々と投げてくるさとくんのような人間に対して、言葉で反論できる自信はあるだろうか。「私は認めない」としか言えない洋子。心がないから人間ではない、寝たきりで体も動かせないのは生きている意味がない…。じゃあ何故生きているのか、人間は何のために生きるのか。綺麗事ではない答えを出せるか。観ている観客一人一人に問いかけられている気がしました。さとくんが言っていた3.11の話に共感してしまった。津波の映像が流れると悲しい気持ちになる。でも数年たつと「あれは現実だったのか?」「夢だったのか?」「あれが夢だったらいいのに…」と思う感覚。そして記憶から“見たくないこと”“嫌なこと”“自分には関係ないこと”を勝手に排除してしまう感覚。人の命を奪うことは許されないが、見て見ぬふりをすることも同じように罪なのかもしれない…。そういえば過去にどこかの女性議員も言っていた“生産性のない人間”発言。これだけは言える。生産性のあるなしで人間を2つに分けることは間違っている。
主人公の洋子が、過去に重い障がいを持って生まれた我が子を早くに亡くし、再び妊娠したことで苦悩するストーリーも同時進行で描かれています。自分の子供が生まれる前に障がい者だとわかったら…。生きるとは何かと同時に、幸せとは何かを考えさせられました。堂島夫妻の愛がこの映画で唯一救われるポイントでした。
差別はしてはいけないと分かっていながらも、自分には関係ないと思っていたり、自分に不都合なことは見て見ぬふりをすることを無意識にしてきた気がする。相模原の事件が起きた原因は“臭い物に蓋をする”日本社会の悪い風潮なのかもしれない。当事者だけの問題ではなく社会全体で考えていかなければいけない問題はたくさんあるのだと再認識させられました。

宮沢りえ、磯村勇斗の迫真の演技は素晴らしかったです。
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