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ダム・マネー ウォール街を狙え!のaoringoのレビュー・感想・評価

3.9
コロナが世界を襲った2020年から2021年にかけて、アメリカでとんでもない経済事件が起こっていたことをご存じでしょうか?

「ゲームストップ事件」と呼ばれ、アメリカの投資文化を大きく変えたひとつのきっかけにまでなりました。これまで自分たちに都合よく市場を操作してきたウォール街への個人投資家たちの逆襲ともいわれた大騒動を映画化したのが本作です。

■ゲームストップ事件とは?
2021年、アメリカのビデオゲーム小売企業である「ゲームストップ」という会社の株が、一部の個人投資家たちの行動によって急騰し、それにより多くのヘッジファンドが大損失を被り、金融市場全体が大変な騒ぎになりました。

既存の個人投資家だけでなく、ゲームストップ株には数千万人規模の新規参入者があったというから驚きです。

■個人投資家対ヘッジファンドの戦い
ゲームストップは、オンラインショッピングの普及とパンデミックの影響で経営難に陥っていました。そのため、ヘッジファンドなどの投資家はゲームストップの株価がさらに下がると予測し、大量の空売りを行っていたのです。

Reddit(アメリカ版2ちゃんねるとも呼ばれる掲示板)のサブフォーラム「WSB」で生配信を行う一人の個人投資家が、ヘッジファンドの空売りに対抗しようとゲームストップ株を大量に購入し始めました。

その行動がWSBに集まった個人投資家に広がっていき、ゲームストップ株価を押し上げることでヘッジファンドに集団で対抗する流れになっていったのです。

株価が上昇すれば、空売りポジションを取っているヘッジファンドは強制的に株を買い戻す必要があり、それによってさらに株価が上がる「ショートスクイーズ」が発生することを、彼らは狙っていました。

■株価の爆発的な上昇
個人投資家の買いが殺到し、ゲームストップの株価は急速に上昇しました。2021年1月初めには20ドル未満だった株価が、1月27日には一時的に483ドルに達しました。この急激な上昇により、空売りを行っていたヘッジファンドは莫大な損失を被り、いくつかのファンドは救済を求める事態となりました。

■WSBの影響力
この掲示板フォーラムは、日本の2ちゃんねる(現5ちゃんねる)同様、便所の落書きと揶揄されるような卑猥なメッセージや過激なパフォーマンスで溢れており、ウォール街の機関投資家たちは見向きもしないようなマニアックな存在でした。

作品内でも描かれていますが、ヘッジファンドが大損害を被る中で突然この掲示板は一時期閉鎖され、アクセスできなりました。

■投資アプリ「ロビンフッド」
個人投資家が手軽に株取引をできるスマホアプリ「ロビンフッド」も、この事件には大きく関わっています。SNSやゲームアプリのようにシンプルで分かりやすいデザインと、手数料無料のサービスは若者の投資の裾野を広げる大きな効果があったといいます。

その一方で、投機的な短期売買を繰り返す要因ともなったり、不透明なビジネスモデルが批判されたりといった側面も。

ロビンフッドについての顛末も、作品内で詳しく描かれています。

■大物投資家の参戦
作品内では登場しませんが、マイケル・バーリという大物投資家がゲームストップ株を積極的に購入することによってより大きな影響力を与えました。彼はリーマンショックの原因となったサブプライム危機を予見した人物として知られ、映画『マネー・ショート 華麗なる大逆転』ではヘヴィ・メタルを愛聴する変わり種トレーダーのマイケルとして描かれています。

さらには当時のTwitterでイーロン・マスクがゲームストップに言及。
翌日株価はさらに跳ね上がることに。

物語の主人公はキース。会社員として働く傍ら、掲示板フォーラム「WSB」で「ローリング・キティ」という名前で投資に関する生配信を行っていました。彼の家族を中心に、ゲームストップの株を買うWSBの個人投資家たち、ヘッジファンドの中心人物たちが登場します。彼らの個人的背景を加えながら、この事件の顛末と結末をややコメディ感も踏まえて描いています。

実際のローリング・キティのYoutubeチャンネルは現在も開設されたままになっており、当時の配信を見ることもできます。それによると、彼の風貌や使っているマイクなど、細かい部分も忠実に再現してることがわかりますね。

キースの他にも、ゲームストップ株を買い支えたシングルマザーの看護師、大学生たち、ゲームストップで働くうだつのあがらない社員などが登場し、様々な視点からこの事件を観測しています。
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