真一

ほかげの真一のレビュー・感想・評価

ほかげ(2023年製作の映画)
3.4
 軍国主義日本によって捨てゴマにされた名もなき人々の、敗戦直後の慟哭を描いた作品。「戦争は終結後も人の心を蝕み、社会を破壊する」ーそんなメッセージを感じさせる映画です。

 舞台は、焼け野原にされた東京。廃墟と化した木造家屋の中に、夫も幼子も失った女(趣里)はいた。日々の糧を得るために売春を繰り返す、心を捨てた「生きた屍」だ。

 そんな彼女の前に、地獄の戦地から復員した元教諭と、身よりのない男児が現れる。女はわずかな癒しを求め、二人を居候させるが、待っていたのは、優しいと思っていた復員兵の性加害と暴力だった…

 戦争の後も地獄は続く。大日本帝国がもたらしたのは「皇軍の勝利」でも「悠久の大義」でもなかった。歯をくいしばって生きる庶民に与えられたのは、トラウマによる精神錯乱と重大犯罪が横行する飢餓社会だった。そのおぞましい現実に、本作品は焦点を当てている。

 身よりのない男児を、死んだ息子と重ね合わせて慈しむ女を趣里が熱演。ただ、男児への思いが唐突にMAXに達する展開には、やや不自然さを感じました。ラストも、もう一工夫欲しかったです。
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