kazukisera

ほかげのkazukiseraのレビュー・感想・評価

ほかげ(2023年製作の映画)
3.7
"戻ってこれなかった兵隊さんは怖い人にはなれなかったんだよ"

空襲で家族を失った子供の目から見た戦争と人間。

終戦直後の焼け野原と闇市が広がる時代
女は、 半焼けになった小さな居酒屋で1人暮らしている。体を売ることを斡旋され、戦争の絶望から抗うこともできずにその日を過ごしていた。空襲で家族をなくした子供がいる。 闇市で食べ物を盗んで暮らしていたが、ある日盗みに入った居酒屋の女を目にしてそこに入り浸るようになり。。

監督は、「鉄男」「野火」の塚本晋也監督。
日本の監督の中で、好きな監督の一人である。塚本晋也作品なのでそれなりに精神状態含めコンディションが整っている時に鑑賞した。

熟練俳優でも苦戦しそうな女役は、NHK連続テレビ小説「ブギウギ」のヒロインに抜擢され、今最も活躍が期待されている俳優"趣里"が演じる。

そして後半の物語で、片腕が動かない謎の男を演じる"森山未来"

重要な子役も申し分なかった。

前半は、四畳半の居間、
その脇にある3畳ほどのカウンター。
壁もボロボロで至る所が焦げている。
いつ崩れてもおかしくないようなボロ屋だ。
その狭い半焼けの酒場の中だけで物語が進んでゆく。
その中から一歩も外に出ることは無い女。
引き戸から入ってくる男達。
その時少しだけ映る引き戸が開いた隙間から見える
焼け焦げた外の世界。
ダーレン・アロノフスキー監督作品
「ザ・ホエール」のように、
ワンセットのみで続いてゆく
舞台脚本のような作りだ。

後半は一気に変わる。
まぁこれは少し驚いたが
そこからもじわりじわりと惹きつけられた。

カンテミール・パラーゴフ監督のロシア作品「戦争と女の顔」や原一男監督「ゆきゆきて進軍」のように戦後も続く闇を描く。

彼らの、彼女達のそして子ども達の
戦争はまだ終わっていない

塚本晋也作品としては、穏やかでしたが、これはこれでまた素晴らしかったです。