ワンコ

ナポレオンのワンコのレビュー・感想・評価

ナポレオン(2023年製作の映画)
4.2
【日本にも残るナポレオンの痕跡】

ナポレオンは今でもフランスで人気の高い歴史上の人物だ。

当初はフランス革命の守護者たらんとしたことは確かだと思うし、市民革命の波及を恐れるイギリスが中心となった対仏大同盟が仕掛けた戦争を幾度となく退け、一時はヨーロッパのほとんどをフランスの支配下に置き、皇帝となったことは批判は免れないにしても、皇帝となるにあたって国民投票を行うなどユニークな発想も持ち合わせていたのだ。

そして、ナポレオン法典。
私的所有権の絶対、身分・財産、契約の自由など市民社会の原理を盛り込んだ民法典は特に有名で世界各国の民法に大きな影響を与えた。
明治政府もこれをベースにした民法を起草したが、最終的にはドイツ民法を参考にした民法が定められた。
しかし、同様にナポレオンが定めたナポレオン刑法を模したものを明治政府は旧刑法として制定し、第二次世界大戦後に改正された現代刑法は、旧刑法をベースにしているので、今でも日本にはナポレオンの影響が見られると言っても過言ではない気がする。

この映画「ナポレオン」は、ジョセフィーヌとの関係という視点から歴史を描こうとしたのだと思うが…。

最近のリドリー・スコットの映画には、映画のストーリーそのものに加えて、裏読みが必要なことが多いように思える。
「最後の決闘裁判」は「史上初の女性の訴え」でもあったし、「ハウス・オブ・グッチ」は高級ブランドとは対極にあるの低俗で無教養な人間達の物語だったように思える。ただ、今、グッチはケリングという高級ブランドのホールディング会社の持ち物なので、オーナーは代わっている。

そういうことを意識しながら、この映画を観ると、”英雄か悪魔か”なんて仰々しい日本のキャッチコピーが示す通り、今でもフランスで人気のあるナポレオンは、戦争で多くの兵士を失ったし、その背景にはジョセフィーヌがいて……といったもころを際立たせようとしたのだろうかと、ナポレオンの”人間の部分”を強調して描こうとしたのだろうかと考えてしまう。

ナポレオンというと、何を思い浮かべますか。

エジプト遠征で、それまで行方が分からなくなっていたロゼッタ・ストーン(大英博物館蔵)を再び発見したことだろうか、戴冠式の絵だろうか、馬に跨る肖像画だろうか、凱旋門だろうか、ベートーヴェン作曲のピアノ協奏曲第5番「皇帝」だろうか。

日本の戦国武将もそうだが、栄光の陰には数多の犠牲者がいる。

ナポレオンも同じだ。

だが、時代は産業革命の頃でもある。
対仏大同盟に与した国々がイギリスとの協力を望んだのは当たり前のような気がする。
そんな歴史の逆風の中での戦い。

ナイーブだが、実は緻密で勇猛。
「法の支配」という先見の明を持ち合わせていた傑出した才能。

そんな人物像に、この作品のナポレオンは少し足りない気がするけれども、ホアキン・フェニックスの演技と、時代を彩るコスチューム、そして、類稀な壮大な戦いのシーンの迫力には加点したい。
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