みずきち

ナポレオンのみずきちのレビュー・感想・評価

ナポレオン(2023年製作の映画)
4.8
久しぶりにリドリー・スコット御大の「ザ・歴史スペクタクル」を映画館で観られて、最高の満足度。題材的に大砲の迫力を味わえるのが確定しているので、IMAXのど真ん中の席を予約したが大正解だった。いかに大砲が当時の戦況を支配する兵器だったか、これでもかと見せつけられる。

神や戦争や王や英雄を絶対的なものとして描かない御大の腕前には、今回とりわけ力が入っていたと思う。ナポレオンの人間臭さ・キモさ・情けなさが露わにされており、しかも淡々と自然な形で描写されるのが好感度高い。コピーにあるような英雄性も悪魔性もどちらもそこまで強調されず、ひとりの男の栄枯盛衰を静かに追う作りになっている。全体的にとても切ない。ホアキンの貫禄と後半の耄碌ぶりはさすがだった。英雄も悪魔も本当は存在しないのである。

本作におけるジョゼフィーヌをどうみるか、最後の決闘裁判のジョディカマーと似たような描かれ方だった印象。一貫して男性社会目線で描写され、彼女が何をどう感じていたかは、映画内では明らかにならない。仮面性のある表情と手紙のニュアンスから推測するしかない。個人的解釈としては、ナポレオンもジョゼフィーヌも結局似たもの同士、お互い様である。気高い部分もあれば、どうしようもない部分もある、普通の男女ということか。こういったグレーな余韻を残す感じも、とても好き。ヴァネッサカービーは顔の造形が丸っぽくてカワイイので、あんまり何にも考えてなさそうというか小悪魔感が強かった。元々出演予定だったジョディカマーだったら、思慮深く妖艶な感じになったかなと感じた。

ややマイナスなのは、やはり長さと、少し冗長なのと。短縮するためのブツ切り。ディレクターズカットももちろん観にいくけどね。

ナポレオンの主要な戦はすべて登場するが、どれもが戦術性を感じられるもので観ていて手に汗握る。ワーテルローは観ていられないほど悲壮感あって辛い。プロイセン軍の到着前に騎兵も参加して総攻撃をしかけるも、英軍の方陣に騎兵の強みが殺されて、じわじわ負けていく。恐怖。この時代の戦い方や天幕や斥候のようすなどよくわかって、とても見応えがある。どう考えても戦地マニア。

相変わらず色彩感や光の入り具合も美しく、あー御大あと20本くらいこういう映画作ってほしいなぁ…あと何本観れるかなあ…という複雑なきもち。何百億とかけて歴史スペクタクルをハリウッドで作ってくれる監督が後に続いてほしい。
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