耶馬英彦

ニッツ・アイランド 非人間のレポートの耶馬英彦のレビュー・感想・評価

3.0
 2019年製作の邦画「劇場版 ファイナルファンタジーXIV 光のお父さん」では、オンラインゲームのFF14をプラットフォームにして、参加者が協力プレイをする展開に、引退した父親を引き込んでコミュニケーションを図ろうとするシーンが描かれていた。いわばホームドラマである。

 本作品は逆に、仮想空間に誰でも参加できるオンラインタイプのサバイバルゲームDayZのバーチャル空間だけが描かれる。隣りにいるアバターの本体は遠く離れた外国にいるのが、普通のことのようだ。参加者同士が挨拶するところからはじまり、行動をともにしたり、哲学的な話をしたりもする。コミュニケーションは英語だから、英会話ができなければ、参加しても面白くないかもしれない。

 ベテランの参加者たちは、10年とか、1万時間とか言っていたから、私生活の大半をゲームの空間で過ごしている訳だ。仕事でもなく金儲けでもなくセックスでもない関係性を、見知らぬ人と維持し続けるのは、かなりしんどいことのように思える。参加者は人間関係を面倒臭がらない人たちばかりなのだろう。コミュニケーションから何か得られるかというと、何も得られない場合のほうが多いように見えた。居酒屋やバーで隣の人と話すようなものだ。役に立つ話が聞ける僥倖もあるが、大抵は無駄話に終わる。

 参加者は口々に現実逃避と言っていた。それだけ辛い現実を生きているのだろうなと想像はするが、バーチャル空間でゾンビを斬り殺したり、勝手に野菜を作った人を撃ち殺したりするのは、楽しいのだろうか。むしろ訪れたこの空間でも、ストレスが溜まりそうな感がある。
 徒党を組んで同じ色の腕章を巻いたり、同じ場所にみんなで行ったりする。違う色の腕章の参加者たちは敵なのだろうか。撃ってくる人もいて、サバイバルゲームだから死なないように逃げ惑う。かといって緊迫感や緊張感はまったくない。恐怖感もない。

 DayZをやったことがある人には理解できる作品なのかもしれないが、当方は初見で、ゲームの設定も空間もよくわからなかった。映画としては、ストーリーもなくて行き当たりばったりの会話が続くだけだから、最後まで寝ずに観るのが大変だった。お疲れ様でした。
耶馬英彦

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