たんたんめん

市子のたんたんめんのレビュー・感想・評価

市子(2023年製作の映画)
3.8
広く認知されるべき社会的イシューを主題そのものとして扱う映画がある一方、本作はありのままに生きることを許されなかった1人の女性の半生が主題で、イシューはその物語を駆動する強力な歯車という位置付け。
そのあたりの塩梅が人によって評価をわけるポイントになる気もするが、ストーリーテリングに有機的に社会性を忍ばせる作品が相対的に少ない日本映画において、これは非常に誠実かつ質の高い劇映画として、かなり成功していると思った。結末もオープンエンディングで、ここで締めるかという驚きも含めて非常に効果的。

そして、この成功の最大の功労者は言うまでもなく主演の杉咲花で、もう震えるほど素晴らしい。後半の、ある衝撃的な展開から続く団地の一室での中村ゆりとのシークエンス。描写はどこまでも抑制的だが、それゆえに胸を引き裂かれるほど苦しく、忘れがたい。正直、主演が彼女でなかったら評価は一段下がるかも…くらいの吸引力がある。

「正欲」とならんで、社会的イシューとどこまでも個人的な物語を高いレベルで両立させた作品で、必見。
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