デパルマ

市子のデパルマのレビュー・感想・評価

市子(2023年製作の映画)
3.0
去年観たのにムカつきすぎて無視してた。納得いかない。市子が幸せになれないなんて納得できない。予告やあらすじを見聞きした時点で市子は戸籍がないんでしょと感じついていただけに前作の勿体ぶった展開は正直ちょっとしんどかった。ラストに刑事の阿部寛が出てきて「市子さんはあなたといる時だけは幸せだったでしょうね」みたいな、安易に2時間ドラマ風のハッピーエンドの文脈に回収されなくて良かった。とはいえどうしても多少の湊かなえや東野圭吾感というか、観客の涙をあるだけ搾り取って気持ち良くさせてしまうミステリ映画感は否めないし、難病の病名をあえて示さないあたり「よし、ここは難病の設定にしとこう」的な脚本の浅ましさを感じなくもないし、彼女(現実に戸籍の持たない人達)を巡る法的な状況がイマイチ分からないからもう少し丁寧に説明してほしかった。そういうところが真摯に問題と向き合っていない感じがして不快だった。お前たちが持ち出したテーマだろ、ちゃんと向き合って観客にぶつけろよ。無戸籍者の多くは(いや戸籍のある者も同様に)戸籍の取り方なんか知らないから彼らの救われる道を示さずに無戸籍児の主人公が歩む悲劇だけにフォーカスするのはちょっと違うと思う。是枝監督の作品みたいだなんて感想を見たけど(「誰も知らない」の元となった事件の当事者たちは無戸籍児)、「怪物」はまるで同性愛者であることを人殺しと同等かのように描き、主人公の性的志向をミステリのタネのひとつとして機能させてラストはあれでしょ。ある意味「市子」と同じ。無戸籍者の制度の問題や生きづらさを消費するだけして後はほったらかし、みたいな。無戸籍者の多くは戸籍がないためスマホの契約が出来ず(相談窓口を検索できず)、義務教育を受けられず、仕事に就けず、健康保険証も持たず、結婚できず、貧困になり(そもそも無国籍児は貧困家庭に多い)、人権を軽視され、もちろん裁判費用もなく、社会からこぼれ落ちてしまう。無戸籍問題が特集されたテレビをたまたま観たとしたら相談電話に繋がるけれど、映画館で「市子」に出会うと彼らは絶望してしまうんじゃないかと想像して恐ろしくなる。もはや映画の出来なんかどうでもいい。明治時代からの家父長制を温存し続けるこの最低な戸籍制度をかならず変えなくてはならないと思うよ。そのためには現政権が倒れなければならないとも思うよ。
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