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市子のkissenger800のレビュー・感想・評価

市子(2023年製作の映画)
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ナチュラルにネタバレかまされたことがありまして、その時点からの、ん、それって宮部みゆき「火車」(1992)じゃ? という印象は見終えた今も実は続いており。
イ・ソンギュン韓国映画版『火車/HELPLESS』(2012)に、必要条件と思っていた細部が無くても成立するんだな。と感心した過去も思い出され、30数年前に紡がれた(のと似たような)物語に心が動くひとが今も居る、それは宮部みゆき愛読者として……悪い気はしないね、ぜんぜんね。

「持てる者」と「持たざる者」の共生に大事なのは前者が定めた規則じゃない/ほかならぬ前者にも、そういう発想をするひとは存在する、すごく少数だとしても/人間って集団、不可解だよな
そういう話じゃないですか、これ。キミはどうだい? 市子の味方? 「市子の味方って自分」に酔っちゃうタイプぅ?(野原しんのすけvoiceで)

車椅子ユーザーが劇場で、みたいなニュースが目に入って自らの立ち位置に無自覚なまま噴き上がる(いまこの瞬間は)持てる者(ども)を苦々しく眺めていた昨日今日、そういうことを言う奴らもこの「物語」には感動したりするんでしょ、なあ、おまえもおまえもおまえも全員大阪湾の底に沈めたろか。
と物騒なことを-ああ、そういえば奈良県しかも北西部出身なのでその山は生駒やないやろ箕面やろ。みたいなことも-思ったな。知らんけど。

無論主演の力量あってのものですが、佐藤正午「ジャンプ」(2000)含め、いろんな日本エンターテイメント界の遺産をきれいにアウトプットとしてまとめてある、という意味では成功しているんじゃないでしょうか。


思い出したので追記しておくんですが、作中、ちょっとだけ描かれた新聞配達店。ワケがある人たちにとって最後のセーフティーネットだったあそこも宅配制度と共に間もなく終わるわけ。
40数年、逃亡生活を続けた人物の終の棲家になった工務店もそうだったろうけど、行き場を失ったひとがかすかに息をつくことができる場所がどんどん減って、それは健全な社会か。って問いと、本作エンディングに漂う<もののあはれ>は近くにあるのかも。
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