散文的に見え隠れするそれぞれの人物の過去、ある程度は想像で補うしかないのだが、思いがけず交差した三人の息遣いが伝ってきて、それらが思いやりへと結実することで神秘的な温もりが持続する。人知れずに、あるいは無自覚のままで目に見えない力で救済を施す小川あんの存在や行動。不可解でかけ離れた感覚ではあるものの、ドラマの数々が不思議と親しみのある日常に根差しており、あまりにもナチュラルに心の雪解けを描く。人間の感情の機微は映画でもない限りわかりやすく目の前に現れることはないが、そうした誘導線をぼかしてる作風でありながら、なんとなく信じられてしまう温度感が常に感じられる柔らかさがあった。