てつこてつ

ぼくを葬る(おくる)のてつこてつのレビュー・感想・評価

ぼくを葬る(おくる)(2005年製作の映画)
3.8
フランソワ・オゾン監督作品を鑑賞するのは三作目。

これまで見てきた「8人の女たち」「スイミングプール」で、女優さんを撮るのが上手い監督だなあと深い感銘を受けてきたが、今作は、自分にとっては初の男性主役の彼の監督作品。

ゲイをカミングアウトしているオゾン監督の死生観がそれなりに投影されているのが伝わり、今まで見てきた作品と比べて、奇をてらうところが無く、極めて真摯なストーリー。

末期癌で余命僅かであることを突如宣告される31歳のカメラマンという主人公にメルヴィル・プポーをキャスティングしたのは、さすがのオゾン監督、お目が高い。この役には相当拘り抜いて配役したんだろうな。

ストレートの自分でも思わず見とれてしまう程の端正な顔立ち。スッと一直線に伸びた鼻筋を中心に左右の顔のバランスが正対称という、世界の名だたる映画スターを探してもなかなか存在しない完璧な顔。こういうのを正真正銘のイケメンと言うんだろうな。彼のこの美貌でこの作品は成功したと言っても過言じゃあない。

オゾン監督もそこの所を十分に心得ているのか、これほど登場キャラクターの顔のアップのシーンが多用される映画作品ってなかなかお目にかかれない。

そんなプポーと全く引けを取らないフランスの大女優ジャンヌ・モローのオーラも凄い。「死刑台のエレベーター」の面影をそのまま残していて本当に美しく、プポーと並んでの2ショットのアップでも全く負けていない。ドヌーヴ、バーキンもそうだけど、何故に、ヨーロッパの女優さんたちは美しく年を重ねることが出来るのだろう?

全編通してのライティングの美しさ、ラストの海水浴場のエンディングシーンも印象に残る。ヴィスコンティ監督の「ベニスに死す」へのオマージュと捉えるのは、ちょっと深読み過ぎか?

オゾン監督作品にしては比較的アクが少ないストーリー展開ではあるものの、それでも、終盤のカフェのウェイトレス夫妻の願いを聞き入れるシーンでは監督らしい演出が見られるし、多くのレビュアーさんも書かれているが、恋人とのベッドシーンで一瞬ではあるがハッキリとモザイクなしで映すあの描写には正直驚愕した。メルヴィル・プポーのセクシュアリティは知るところではないが、彼がストレートだとしたら、プロの役者としての演じるキャラクターへの感情移入の凄さには頭が下がる。

何故、姉と不仲なのかの説明も不十分だし、自分の家族と見ず知らずのウェイトレス夫妻への扱いの不平等さとか色々疑問点もあるが、メルヴィル・プポーとジャンヌ・モローの存在で、そういう多少の欠点は帳消しとなる。

81分という短い尺でまとめたのもいい。この邦題も好き。
てつこてつ

てつこてつ