先にGIFTでショット自体はいくつか見ていたけど映画として全く別物だった。ちゃんと笑えて不穏で濱口映画だったけど、画面にはこれまでにない純度と殺傷力すら感じる鋭さがあった。大美賀さんが最初ノコギリで木を切って、そのまま薪割り成功するとこまでがワンショットに収まってて、これはすごいことになるぞと背筋が伸びた。スタッフから主役に抜擢されたという大美賀さんの纏う不穏さは素晴らしく、ハッピーアワー組の登場も嬉しい。グランピングの社員の彼女もあかりの働いてた病院の人だった。
序盤娘の花に植物の説明するところで死の匂いがし、あ、ミツバチのささやきだ…となってから更にテンションが上がった。湖での鹿との遭遇、失踪、名前もアナならぬハナ…検索したら数日前に出ていた濱口さんのインタビューでやはり影響大と言っていて、ミツバチのささやきの精神性を意識したとのことだった。
グランピングの説明会の「上で起こったことは全部下に流れる」のとこはちょっと説明的に感じたけど、画力でもってクレッシェンドしていくラスト数分が圧巻だった。対人間の関係性の中でピンポイントの悪は存在しない。そうとわかって歩み寄れると思いきやあまりにあっさりと訪れる断絶。あの子の死(と断定して良いとすれば)の元凶は靄がかった自然の中で見つからず、行き場のないあの取っ組み合いは切なすぎた。鹿は何もしなければ襲ってこない、やりすぎてはバランスが崩れる、撒かれた言葉が後からグサグサと効いてくる。コミュニケーションで生まれる幸せな瞬間も決して逃さない一方、心の平穏のためには目を伏せたい断面もまざまざと見せる、濱口さんはやっぱり甘くはなかった。
石橋さんのメインテーマも繰り返されるほど映える様で良い。変な意地張りはやめてファン公言しようかな。まだまだ濱口映画が見たい。