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悪は存在しないのmoriのレビュー・感想・評価

悪は存在しない(2023年製作の映画)
4.2
【加筆修正】
濱口竜介監督最新作『悪は存在しない』。
師である黒澤清が描いた精神を、おそらく意識的に引き継いでいる。

人間が群れを成し文明を発展していく上で作った規範やタブーと、それに定義された "悪" の概念。
人間中心主義的な道徳が存在しない野生において、悪とされる殺しや略奪は必要あらば(時には必要なくとも)当たり前に為されること。

凍てつく空気に似た緊張感と、今にも何か崩れそうな不穏な空気が画面を満たす。
「問題はバランスだ。やり過ぎたらバランスが壊れる。」
美しく広大な自然描写とともに画面の中の緊張はさらに増し、手負の鹿との対峙でついに「バランス」は崩壊してしまう。

あのラストシーンが、黒沢清『カリスマ』のミツコの言葉と重なって見えた。
「生きようとするから相手を殺すわけですし、相手を殺せば自分は生き延びる。そうでしょう?」
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