豪

悪は存在しないの豪のレビュー・感想・評価

悪は存在しない(2023年製作の映画)
5.0
俺は「悪は存在しない、ただし暴力は存在し誰しもが加害者であり被害者である」という内容だと解釈した。

ここでの暴力とは、川が上から下に流れる比喩であったように一方的に影響を及ぼされることである。

住民たちは芸能事務所からの一方的な開発方針について反対する。自分たちが被害を受ける暴力と受け取ったからだ。しかし彼らも暮らすために自然を「バランスよく」暴力で破壊してきたのには変わりない。事実、銃声という表現で鹿へ暴力を行うシーンは2回ある。そして、その暴力は娘の失踪という形で住民たちにも返ってくる。

ただ、悪意はない。芸能事務所の人間も、住民も、生活のためにやっている。
それは我々も同じだ。生活のために環境破壊の要因となるモノを使うが、地球を壊したくてやっていない。労働者を搾取した安いモノも買うが、労働者を虐めたいわけではない。しかし我々は生活するだけで何かを虐げているのだ。生きることは奪うことなのかもしれない。

暴力は世の中に複雑に入り組んでおり、避けられない状況にある。善意が暴力に塗り潰されるかも知れないし、悪意なくとも死ぬかも知れない。それはいつでも隣り合わせだ。最後の非論理な展開はそのことを示唆したのではないかと考えている。だからこそ、これはキャッチコピーにある通り「君の話」なのではないか。
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