唐突なラストに考える余白と余韻がズシンと。各自よく考えましょう的な作品で監督の策略にハマった感覚です。
↓以下、ネタバレ含みます。
音楽家に依頼されて作ったライブ用の作品のせいか、短尺でさっくりしてた。個人的には狙いすぎる演出や会話にちょっと冷めつつも、ものすごく考えさせられ、後を引きずる作品だった。
長野の自然豊かな町に東京の芸能事務所がグランピング施設の建設計画を持ち込むストーリーが大筋としてあるけれど、描いているのは人間の不確かさや多面性なのだと思いました。
町人にとっては東京の会社が自分たちを脅かす存在だけど、鹿から見たら町人が鹿を脅かす存在。死んだ鹿の骨や傷を負った鹿が人間の身勝手さの象徴に見えて悲しかった。
「川は上から下へ流れる」というのは、会社でも同じ。上層部の悪徳な行為は部下に流れ、やがて澱んでいく。
一方で、純粋に自分(とその家族)を守りたいと思うと人は罪を犯したり、傷つけたりする。手負いの鹿が自分を守るために人間を襲うのと同じで、それは悪とは呼べない。
ラストをどう捉えるかは人それぞれ。たった数時間滞在しただけで、町での暮らしをわかった気になっている都会の会社員に「鹿はどこへ行く?」と主人公は問う。その言葉に主人公の怒りを感じたし、会社員にも鹿と同じように傷を負わせたかったのだと思った。自分たちを守るために。会社員の男も、銃で撃たれた鹿も、もうこの場所には戻って来ないだろう。
人間は自然を破壊し、動物の住処を奪っている。そんな自然への警告をも感じつつ、今作を観て、人ごとではなく誰もが加害者になっているのだと感じた。人間のあやふやな心とディスコミュニケーションが怖い作品でした。