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悪は存在しないの更のネタバレレビュー・内容・結末

悪は存在しない(2023年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

序盤は少し退屈。特に何も起こらない。
その代わり、川で水を汲んだり、鹿を討つ銃声が聞こえたり、迎えに行きそびれた娘を探しに山へ入ったり。見進めていくと、後に同じシチュエーションで別のシーンが出てくる。時折、チェーンソーなど不快な音が差し込まれていて、何となく不吉な予感が漂っている。
グランピング施設建設の住民説明会の部分からは、物語がかなり動き出す。
水が上から下に流れていくというコンセプトは、ポン・ジュノのパラサイトを少し思い出した。
水は地域の貴重な資源で、住民たちの生活の最もコアな部分。それなのにグランピング施設の設計は欠陥だらけの杜撰なものだから、当然住民の理解は得られない。一方で、プレゼンしに来た高橋と黛も、住民との対話から、その無理のあるプロジェクトに疑問を持つ。
高橋と黛の車での会話は、この映画の中でも一番人間みのある会話で、各々のキャラクターがかなり垣間見えるシーンだった。よくよく考えると、高橋と黛以外の登場人物は掘り下げがあまりない。巧がなぜ仕事をしていないにもかかわらずお金に困っていないのかもわからないし、なぜ妻がいない(亡くなっている?)のかも語られない。なぜ娘のお迎えを毎日のように忘れてしまうのかも謎。学童の人も知り合いも、誰も娘のお迎えに遅れることやひとりで帰らせていることを咎めないが、結局娘は帰り道で行方不明に。村長?からひとりで高原に行かない方がいいよとから言われたシーンで、何となくそんな展開な気はしたが…。
巧の車の中での、高橋と黛との会話。グランピング施設が鹿の通り道だという話で、「鹿は絶対に人間を襲わない」と巧は言うが、自然に絶対などないのに、なぜ絶対などと言うのだろうと引っかかった。絶対に襲わないなら、そこにグランピング施設があっても問題ないのでは、という高橋と黛の意見は一見正しい。手負いの鹿なら襲ってくることはあるかもと巧は言ったが、最後に出てきたのは銃で撃たれた手負いの鹿で…。娘が倒れていたのはその鹿に襲われたからなのか?それとも銃で撃たれたのは娘だった?あの鹿は幻?(霧がかった朝なのか夜なのか、時系列がよくわからないシーンだった) 高橋が娘と鹿に近づこうとしたのを、巧が羽交い締めにしたのはなぜ?高橋はどうなってしまったのか?わからないことがとても多い。
この映画、都会は悪!自然を壊すな!みたいな主張ではないし、逆に田舎の排他性は悪!みたいな描き方でもない。確かに悪は存在しない。
とにもかくにも、自然は人間の事情なんて知ったこっちゃないし、善悪関係なく自然は人間を傷つけるもの、ということなのだろうか。巧も、自然(鹿)を少し舐めていたように感じる。
少なくとも、グランピング施設建設は白紙になりそう。
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