やっちん

悪は存在しないのやっちんのレビュー・感想・評価

悪は存在しない(2023年製作の映画)
4.2
ベネチア映画祭銀獅子賞受賞作品。
濱口監督の新作。
ようやく鑑賞出来たという思いがまず先だった。

著名な俳優は一切出演していないが、そんな事などどうでも良くなるような美しい大自然の風景が映し出されるスクリーンからは、人間が人間らしく生きることとは…
そんな本質的な問いかけが投げ掛けられる106分間は非常に豊かであった。

前作ドライブマイカーと比較して前作は深層心理がやや複雑な作品であったが本作は地域開発と地域保全といった対立構造が明確に主題として描かれている。

だが主人公の男が一見エコロジー的な生活の謳歌と思われぬでもないのがこの作品の深いところである。
父と娘との対立的な関係性、都会と地方の森林地帯の対比等々。

濱口監督は観客に分かり易い対立構図を見せながらも幾重にも重曹的に本編を構築して見せてくる手腕は見事である。

終始いわゆる静謐な物語からの終盤からのラストシーンまでの急にサスペンスフルタッチな展開は非常に考えさせられどう表題名に掛かってくるかなど深く余韻に浸らせてくれる。

最後に本作は東京でさえ僅か現在2館しか上映されていない。何故かと疑問を感じたがミニシアターの支援が大きな要因と知りこの辺りも濱口監督の気概を感じた。
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