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悪は存在しないのshukiのレビュー・感想・評価

悪は存在しない(2023年製作の映画)
3.8
冒頭の薪割り→タバコ吸いのロングショットからショットの精度の低さを自認できていない様子で、大丈夫かと心配になる。その後も抽象的なインサートは冴えるけれど、人物を捉える際の距離感がズレているカメラ。『偶然と想像』の常に最適だったカメラは何処へ。

娘が失踪してからは素晴らしく、特に山小屋の煙に太陽の光が射すカットはそれだけで観た甲斐があるというような美しさがあった。
そこから繋がれる木々の向こうの太陽を車から捉える移動ショット、夜の森を懐中電灯が四方八方を照らすショット、区長が一人室内から外を眺めているショット、どれも最高。

そしてラストシーン。あの霧。『蜘蛛巣城』以来と言いたくなるような完璧な霧。赤いダウンが再度力尽き倒れた後、スッと晴れる霧。CGとしか思えないのだが、偶然らしい。映画に愛され過ぎていないか。

鑑賞後、映画館の館長から、"水は上から下へ行くという話があったが、霧は上から下でも下から上でも無くたゆたんでいる"という指摘を聞き、なるほどと。面白い。

脚本は流石とは思いつつ、ギャグの精度が『偶然と想像』に比べると少し高い落ちるかなというのは思った。どうしても女性を"お前"と呼んでしまうところとか笑えはするが、超面白いまであと一歩感。期待値を上げすぎているだけかもしれない。
相変わらず本音ゲームではあった。
これまでと違うと思ったのは語尾。主人公は話し方だけでなく語尾で、周りから浮く。
いつにもまして棒読みだらけだったが、ズームで繋いだコンサルだけ棒読みじゃない。ここも逆に浮かせている。
主人公と娘の声は素晴らしく、"相手の心のなかにある鐘を鳴らす声"という濱口メソッドのゴールまで辿り着いている感はあった。
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