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悪は存在しないのDのレビュー・感想・評価

悪は存在しない(2023年製作の映画)
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濱口竜介と私を繋ぐ言葉を取り上げられてしまった……良くも悪くも。
彼のインタビューを沢山読んできたけどドライブマイカーから3年経ってやや志向が変わったように感じる。
この映画が会話によって成立しているのは間違いなく、会話の質は変わらずピカイチだが、濱口竜介にしては人物や思想を言葉で伝えようとする試みが少ない。芸術映画ではなく物語映画なんだけどもあくまでも物語を俯瞰している。場をそのままカメラで撮影しているように見せているのは相変わらずか。特に巧のミステリアスな雰囲気も相まって、抽象化しているのとも違うがやっぱり伝えることが目的ではなく、静かで中立的な提示だけがある。
そう、タイトル通りの中立の徹底はさすが。脚本は勿論だがカットの長さや順番の工夫によって実現している部分にも注目したい。

本作、緊迫感や不穏さ、各人物の怒りとそれに伴う暴力性はあれど、他の濱口作品にあるような緻密に計算された脚本や切実な思想があまり感じられないことから、ある意味自由でリラックスした作りになっている印象。こうした作風で日本映画が国際映画祭の賞を取るのか、というのは勉強不足かもしれないがやや嬉しい驚き。
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