キャッチ30

悪は存在しないのキャッチ30のレビュー・感想・評価

悪は存在しない(2023年製作の映画)
4.0
 音で魅せる映画だと思った。薪を割る音、水を汲む音、遠くから聞こえる銃声。それらと重なり合う石橋英子の音楽。元々、今作の発端は石橋が音楽に映像を付けるところから始まっている。その為、音が基調になるのは当然か。

 舞台は長野県にある水挽町という町だ。豊かな自然に囲まれ、水も綺麗で移住者が多い。巧はこの町で自給自足の生活を送っている。無口で無愛想に見えるが「便利屋」として住民たちとは顔見知りだ。巧には花という娘がいる。花は森の中を彷徨い歩いている。慎ましくも穏やかな日常を過ごしていた巧たちだったが、彼等の近くにグランピング場の建設計画が持ち上がる。コロナ禍の煽りを受けた芸能事務所が政府からの補助金を得て計画したものだった。

 芸能事務所の人間である高橋と黛が巧を含める地元住民たちに説明会を開くが、この説明会のシーンが今作の白眉だ。杜撰な計画が明らかになり、住民たちの多くが問題点を指摘していく。高橋と黛は住民たちとの対話によって自分たちが如何に無知であったのかを知る。濱口竜介監督は地元住民と芸能事務所側の対立という安直な図式には落とし込まない。何より、双方とも声を荒げたりすることなく議論が進行していくのが良い。

 唐突すぎるラストは自然の摂理を理解している者と理解していない者の差か。森の中を見上げるショットは神懸かっているし、高橋が何度も薪を割ろうとする場面はどこか可笑しい。