Omizu

悪は存在しないのOmizuのレビュー・感想・評価

悪は存在しない(2023年製作の映画)
3.7
【第80回ヴェネツィア映画祭 審査員大賞】
『ドライブ・マイ・カー』濱口竜介監督作品。石橋英子との共同企画として誕生した一作。ヴェネツィア映画祭で審査員大賞を受賞、アジア映画大賞では作品賞を受賞した。

今年一番の話題作である本作、良い意味で唖然とするラストが衝撃的。前半は少し退屈してしまったが、濱口監督独自の演出や撮影が素晴らしい。説明会のあたりからどんどん予想外の所へドライブしていく感じが新感覚でよかった。

機会を逃し続けて今更の鑑賞になってしまった。濱口作品は『ハッピーアワー』が一番好き。特別思い入れのある作家である訳ではないが、『ドライブ・マイ・カー』で一躍世界的な映画作家になったその手腕は疑いようがない。

横移動のダイナミックで美しいカメラワークに酔いしれる前半、ハードな展開になっていく後半、どちらもよかった。

タイトルの「悪は存在しない」は果たしてどういう意味なのか。ラストに関して様々な考察が成されている。触れることはしないが、あえていうならば「普遍的な暴力性」だろうか。「悪は存在しない」というのは反語のように思える。そういう建前でみな生きているが、果たしてそうだろうかという問いのように思えてならない。

誰の中にも暴力性はあって、問題はそれがいつ爆発するか。それを描きたかったのかなと思った。所謂「いい話」にはしない濱口監督の語り口が特殊で唯一無二。

とはいえ濱口作品の中では特別いいという訳ではない。批評家受けはしそうだが一般観客にはアクセスしづらい。棒読み演技が全場面で良い効果をあげているかというとそうではない気がする。撮影が美しいのはいいがやや冗長な箇所もあった。

日本映画の最先端として観る価値は絶対にあるが、濱口監督のベストワークかと言われると…かなりの論争を呼ぶであろうし現に呼んでいる問題作。それも含めての作家性を存分に発揮した作品。
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