路々

悪は存在しないの路々のネタバレレビュー・内容・結末

悪は存在しない(2023年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

24.05.18 22

今のところ、今年一じゃないだろうか、というぐらい良かった。

ゴダールを意識した音楽の使い方、「カメラの視点はカメラの視点」という言葉に表されるような大胆な構図、すべてが意外で新しく楽しく、おもしろかった。

画の撮り方が、素人でもわかるぐらい変で、変なだけじゃなくてそれが美しいのだからすごい。

「だるまさんがころんだ」のところなんてすさまじいね。


「便利屋」として働く主人公の巧は、どうして生計が立てられているのかもよくわからないし、どのように暮らしているかもよくわからないし、妻とどうして別れたのかもわからず、あまり「人生」が見えない。
芸能プロダクションの高橋と黛も、なぜだか今の芸能プロダクションにおり、ふっと辞められるとも思っている。どこか「人生」から距離をとっている。

「人生」あるいは「生」から距離を置くその姿勢は、舞台である移住者の多い水挽町にも重なる。
どこかみな、根無し草なのだ。

だからこそ、重要であるはずのグランピング場の建設や花の失踪には、もやがかかり明確な結論を持たずに終わる。

「夢のような」という形容はもっとサイケデリックで不条理な映像に当てられるのかもしれないが、やはりこの映画も「夢のような」感覚がある。

舞台のようなのかもしれない。カーテンコールで、倒れた高橋も鹿に襲われたであろう花も、笑顔で出てきてくれるだろう。


見終わって良かった、と思ったがその良さの原因は自分でもあまりわかっていない。

巧が「なぜか」高橋を襲った瞬間、私は彼に襲わざるを得ない理由があったのだと思ったし、そこにずっと見えなかった「人生」が垣間見られたような気がした。

高橋と黛の車のシーン、めちゃくちゃ良かったな。会話劇の人だと思った。

何のメッセージも強く出ていなくて良かった、と思った。
撮れてしまった映像の連続だから良かった。
路々

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