Kz氏

悪は存在しないのKz氏のレビュー・感想・評価

悪は存在しない(2023年製作の映画)
3.8
森の木々を見上げるファーストショットが少女花の視点であることが分かるまでが延々と長い。同様の長回しシーンが続いて眠気を催してきた頃から、会話のピンポンのリズムで世界に引き込まれていく。
グランピング観光業者と高原村落住民の対峙の話だけど、その枠組みでは何も起こらない。少女花の失踪という事件の途中で唐突に映画は終わり、観客は放り出されてしまう。開発業者高橋はどうなったのか、夜の木々を見上げながら荒い息を吐いているのは誰なのか。

寓話なのか、夢なのか、象徴なのか。

本作は、音楽家石橋英子のライブ用映像を製作する過程で誕生した映画で、監督自身が「完成させる必要がない、あるいはどう完成しても誰も文句を言わない」作品だと語っている。撮りながら脚本を書き、現場で撮れたものに応じて編集する感覚だったという。

我田引水ながら、現職時代、ディバイジングの真似事をして演劇部諸君と作品を創っていたことを思い出して嬉しくなった。まだ継続している高校演劇部が生徒創作一辺倒で活動しているのも愉しい。

「悪は存在しない」というタイトルは、「意味や解釈など存在しない」と解していいらしい。(映画HPの特別鼎談参照)
Kz氏

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