YohTabata田幡庸

僕はキャプテンのYohTabata田幡庸のレビュー・感想・評価

僕はキャプテン(2023年製作の映画)
4.2
ストックホルム国際映画祭初参戦。友人に誘われ見に行ったが、前夜にロマン・ガヴラスの「アテナ」を観ていた事もあって中々にシンドい二日間。
マッテオ・ガローネ作品は初観賞。友人たち曰く、パオロ・ソレンティーノと並んで称されるイタリアの監督らしい。

話は、ヨーロッパで一旗上げようと旅に出る二人のセネガル人少年の冒険譚。と言えば聞こえは楽しそうだが、その道のりは観ている観客も疲弊する程辛い。セネガルからバスでマリ国境へ。パスポートを偽造するも警察にバレ、親に黙って二人で働いて貯めた金はどんどん出て行く。砂漠を通って地中海へ向かう。その道中の過酷な事。世の中を知らない16歳の少年たちには更に過酷だろう。延々と砂漠を歩く一行の姿に観客も喉が乾いてくる。映画を観ていてこんなに喉が乾いた事はない。「アラビアのロレンス」もここまでではなかった。挙げ句、砂漠のど真ん中で警察にあり金を全て奪われ、一緒に旅をして来た従兄弟は連行される。主人公は奴隷商人に捕まり、金持ちに売り飛ばされる。ここまでの流れが本当にシンドい分、ここからの展開が救いに見えてしまう。勿論欧米や日本では想像を絶する大変な事が起き続けるのだが。

途中途中に挟まるセネガルの神話に基づく宗教画の様な描写の映像的飛躍が何とも美しい。映画的で好きだ。

序盤の笑い所も、同じ単語を繰り返す辺りは小津安二郎感があって笑った。

主人公は従兄弟と落ち合い、ヨーロッパを目指す人たちを引き連れて、漁船の様な船でイタリアを目指す。諸事情あって主人公はその船の船長となる。その道中にも様々な難関が待ち受けているのだが、その水の描写の美しい事。そして夜の資源採掘プラットフォームの異様な君の悪い美しさ。

エンディングも秀逸だ。一行は困難を乗り越えてイタリアの地を目前にする。主人公は「俺がキャプテンだ!」と喜び、人々も歓喜する。その歓喜の後ろで微かに、だが確実にヘリコプターの音が聞こえる。終幕。
映画としては上手いのだが、その後に彼等を待ち受ける物事を思うと、帰りの足取りは重かった。見られてよかった。
YohTabata田幡庸

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