自動車メーカー「フェラーリ」の創設者、
エンツォフェラーリを描く伝記映画。
自動車メーカー「フェラーリ」を
題材にした作品ではあるが、
創設者であるエンツォの苦悩や歪んだ愛、
夢への貪欲さを描いた、
伝記作品としての要素を強く持つ作品。
伝記映画ではありながら、
扱う時間軸が非常に短期的なので、
主人公エンツォに切迫する、
濃密な作品とは言えず、
伝記ものとしてはやや物足りないが、
その夢を追う執念や貪欲さと力強さに加え、
それと対をなすような
息子の死と喪失感に囚われ、
冷え切った夫婦関係や、愛への渇望を、
不倫による歪んだ愛で埋める、
繊細でか弱い姿を描ききったことで、
主人公エンツォの生き様を
しっかり描ききっているところが魅力的。
そんなエンツォを演じ切る、
俳優アダムドライバーの演技力は
さすがの表現力で、
また彼の妻、ラウラを演じる、
ペネロペクルスの迫力もすごい。
冷え切った夫婦である2人が、
思いをぶつけ合いながら、
激昂するシーンは圧巻。
自動車メーカーを扱う作品だけに、
そのレースシーンの迫力と臨場感は
思わず息を呑む。
主観視点による轟音のエンジン音や
車体が震え、擦れる音、
ハンドルやギアを握る手の力強さは
劇場のスクリーンで体感してこそ。
レースシーンを扱う作品である、
「フォードvsフェラーリ」や、
「グランツーリスモ」と比較すれば、
やや見劣りはするが、
劇場で体感するには申し分ないクオリティ。
なにより、
この2作品が描いてはいながらも、
直接的には描写しなかった、
「レース中による事故の描写」を
しっかりと描ききったところが良い。
死と隣り合わせ、命懸けのレースが
どのようなものなのか。
目を覆いたくなるほどの凄惨な描写で
レース事故の現場を映すシーンは
この作品の注目ポイント。
愛するものが帰りを待っていたものが、
ありふれた家族の日常が、
ひとつのレース事故で崩れ去り、
地べたに散らばる。
栄光の裏で流れた血の描写を
逃げることなく描いたのは本作の強み。
荒削りな点はあれど、
1人の人間を描く伝記映画としても、
迫力ある映像のレース映画としても、
魅力的な満足のいく作品だった。