柏エシディシ

伯爵の柏エシディシのレビュー・感想・評価

伯爵(2023年製作の映画)
3.0
パブロ・ラライン。相変わらずヘンな映画撮ってて面白い。
悪名高き独裁者(しかし国内では今なお一定数の支持者もいるという)ピノチェトが、実はフランス革命ごろから生きてきた吸血鬼だったという設定のダークコメディ。
自身の死を偽装し、隠遁生活を送るピノチェトは遺産相続を巡り家族を呼び寄せるが、そこに会計士を装う美人聖職者が訪れる事によって事態は複雑化していく…

大衆を殺し搾取する為政者は、生き血を啜る吸血鬼と同様である、というアイロニーと、更にピノチェトの意外な血縁が「あの人」というのもなかなか鋭い風刺だが、政治諧謔ものとしてはあまり捻りや深みがある様に思えず、それよりノスフェラトゥの様な伝統的な吸血鬼ものらしいアート寄りの作品。という印象。
夜空を軍服で滑空する吸血鬼や荒野を浮遊する美女という絵の強さや、割とシンプルな男女の愛憎劇にお話が回収されてしまうので、もっとポリティカル風刺劇みたいなのを期待していた自分は肩透かしをくらった気分もする。モノクロの画面も寓話性を強くさせるし、もっと現実を刺してくる様な苛烈さを求めていたのだが。
歴史上の人物が実はナニナニだった、というとお馴染みのアプローチだが、割と近代のこれだけの人物をこの様に捉えるだけでも相応な刺激ではあるけれど。
日本の映画ではなかなか出来ないし、弱いトコだし。
柏エシディシ

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